SenseWeb:
グループでの体験共有を容易にするシステム
ATRメディア情報科学研究所
Roberto Lopez-Gulliver
鈴木 雅実
1.はじめに
皆さんが自分自身の経験を他の人々と共有しようとする場合、写真やビデオ、音楽CD等はコミュニケーションを支援する手段の一部になっているでしょう。ここでご紹介するSenseWebシステムは、多くの人々がマルチメディア情報(イメージ、サウンド、ビデオ等)に同時に、しかも音声や手の動作等による自然な形で触れ、操作できることをねらいとしています。
さて、あなたが最近京都の金閣寺を訪れ、その体験がいかに素晴らしかったかを友達に話そうとしているものと仮定します。きっと、あなたは沢山の写真やビデオを撮影したことでしょう。体験を分かち合うために、あなたはどのようにそれらを友人に見せるでしょうか? 写真をアルバムに入れて、一つ一つ手渡して見せる方法もありますし、ビデオTVやコンピュータに入れて、あなた自身の操作で表示することも可能でしょう。
コンピュータは私たち人間が情報を蓄積、整理・分類し、さらに検索することを助けています。また、初心者がマウスやキーボードを介してこれらの情報と接するためのグラフィカル・ユーザインタフェース(GUI)が開発されてきました。このようなコンピュータとのインタラクションは、多くの場合よく働きますが、残念ながら習熟が必要です。さらに重要なことですが、誰もが部分的にインタラクションに参加したいと思うようなグループ・ディスカッションには適していません。
2.SenseWeb システムの特徴
SenseWebシステムは、これまで述べたような問題を克服することをねらいとしています。それは、グループ・ディスカッションを支援し、マウスやキーボードを入力手段として用いることを避けて操作を単純化することを意味します。
(図1)は、ユーザとSenseWebシステムとの典型的なインタラクションの場面を示しています。ユーザたちは、同時にスクリーンに触れることができ、手でデータを操作できると同時に、キーワードやさらに詳しい情報を表示するための簡単なコマンドを音声で入力することができます。
それでは、さきほどの金閣寺の例で、SenseWebシステムを使用する利点を見て行きましょう。マウスやキーボードはもう必要なく、あなたはコンピュータに対して自分の声で問いかけ、「金閣寺」と発声するだけで、関連するイメージやビデオの検索が実行可能となります。SenseWebシステムのユーザは、表示されたそれらのイメージやビデオに手で触れて操作することができます。複雑なインタラクションのテクニック等を学ぶ必要はなく、単純な手のジェスチャだけで十分です。
例えば、あなたは表示されているイメージを手でつかんで、スクリーンの周縁部にドラッグすることができます。さらに、両方の手で触れたイメージを拡大したり、一定時間つかんでいることにより、それをブックマークに入れたりすることも可能です。あなたは、例えば「もみじ」という発声によりキーワードを追加することができますが、それにより自分のデータベースから関連するイメージが検索されます。そこで、「金閣寺」と「もみじ」の両方を“AND”で結んで、検索してみたらどうでしょう。両方のイメージをそれぞれの手でつかんで重ね合わせるだけです。システムが、この操作を2つのキーワードによる検索の絞り込み要求と解釈してくれます。(図2)はこのような手のジェスチャによる実際の操作を表しています。
以上の操作を実現するため、SenseWebシステムでは、人の手で生じるスクリーン上の「赤外線の影」を検出し、その時の状態に応じて、表示中の画像アイコンに対する処理(イメージの拡大、
AND検索、ブックマークへの登録など)を実行します。
上記のすべてのインタラクションは、どのユーザによってもいつでも同時に実行可能であることに注目して下さい。興味を持ったイメージやビデオにコメントしたり他の人と話し合ったりする際に、順番を待つ必要はないのです。余計なストレスがなければ皆ハッピーです! これは、インフォーマルなディスカッションやブレインストーミングのように、誰かがプレゼンを担当するのではなく、皆が同時に関与する場面も多いミーティングにおいては重要なことです。
このような「多人数」かつ「自然なインタフェース」のインタラクションに本当に役立つことは何でしょうか? それは、単純に言えば、ユーザが情報をどのように操作するかではなく、ディスカッションの内容に集中できる環境を用意することです。また、順番に交互に発言することが、一般に効率的なコミュニケーションな方法とみなされていますが、同時のインタラクションを許すことがプラスに働くことも多いのです。
3.アプリケーションと今後の展開
ネットワークを介したコミュニケーションも重要ですが、直接人と人が触れ合う体験共有の支援においては、マルチユーザのインタラクション環境が望ましいと言えます。さらに、ディスカッションの内容を注意の中心に持って行くためには、ジェスチャのような自然な手の動きをインタラクションの手段として利用できるインタフェースが必要です。
このようにSenseWebシステムは、個人の体験を人に伝えることを助けるためのアプローチによる試作システムですが、マルチユーザ・インタフェースとマルチメディア検索アプリケーションの2つの要素から構成されています。アプリケーション部分を変更することにより、インターネットからのイメージとサウンドの協調的な閲覧や、協調的な分類、マルチユーザによるゲーム等の様々な目的に用いることができます。私たちは、今後エデュテイメントやビジネス・ブレインストーミング、そのネットワーク化、インタラクティブな画像掲示板への応用も考えています。
近い将来、私たちはユーザID認識やインタラクションの履歴パタンの解析等を加え、個人ごとに適応的な視覚化を提供することを計画しています。また、システムを、携帯電話やノートパソコン、PDA等の他の入出力デバイスと統合することも視野に入れています。そうすれば、よりきめ細かい情報の取捨選択や、コミュニケーションの促進に役立つことが期待されます。
もちろん、私たちの研究プロジェクト全体が目指している体験共有は、ここで述べた内容以上の深い内容を含みます。コンテクストと場所へのアウェアネス、発話の意味、匂いや力覚フィードバック、感情、表情等の他の感覚が手がかりです。このような種々の五感インタフェース等とSense
Webの基本技術を組み合わせて、近未来の快適なオフィス環境、集合住宅、商業スペース等の設計に役立てることも、今後の課題です。なお、“SenseWeb”は登録商標として認められています。
参考文献