マイクロオリガミを用いた光半導体素子



1.はじめに
 膨大な情報量が世界中を飛び交う中で、光の持つ優れた性質を活かした光通信や光記録の研究はますます重要なものになっていくと考えられます。こうした中で、光による情報の伝送・交換・分岐や検出・蓄積(記録)などのあらゆる局面で重要な役割を果たすのが、半導体レーザや光検出器などの光半導体と、ミラーやレンズなどからなる光学素子です。実際にシステムとしての機能を実現するには、これらの光学素子を決められた位置に立体的に配置する組立技術(アセンブリ技術)が必要となります。通常は機械や人の手によって組立が行われていますが、組立精度の向上、あるいは人の手や機械でも扱えないようなミクロな素子をコンパクトにかつ立体的に配置して新たな機能を実現するために、簡単な構造でこれらを同一基板上にあらかじめ決められた位置や角度に自動的に組立てる仕組みの実現が望まれています。
 本報告では、われわれの考案したマイクロオリガミを用いて、さまざまなミクロな立体構造を自動的に組立てる方法とそれを用いた魅力ある光半導体素子の試作例について紹介します。

2.マイクロオリガミとは
 我々の研究室の得意とする「エピタキシャル薄膜成長技術」(超高真空中で原子を1層づつ堆積して単結晶からなる薄膜を作製する技術)を用いてマイクロオリガミは作られます。力学的な性質が互いに異なる積層膜が変形して本来の形に戻ろうとする力を用います。
 板と板をつなぐ蝶番の「ばね」が元に戻ろうとする力を利用して、あたかも「折り紙」を折るように自動的に複雑で微小な立体構造を組み上げることが出来ます。この技術をわれわれは「マイクロオリガミ」という名称で呼んでいます。半導体の単結晶基板の上に立体構造を形成出来るので、半導体レーザや光検出器などとレンズやミラーなどの光学素子との一体化が可能になる技術です[1]

3.基本立体構造の試作例
 ガリウム砒素という半導体基板上にマイクロオリガミ技術を用いて光を一定方向に反射するミラーや複数の蝶番を用いた「合わせ鏡」(レトロリフレクタ)を試作しました[2]。レトロリフレクタは互いの鏡の成す角度をわずかに変えることにより、光が入射してきた方向に信号を送り返すことが出来る素子です。基板から自由になった板(プレート)が蝶番が変形する力を利用して自動的に立ち上がります。板の角度は蝶番の厚さや長さによってあらかじめ決められた立体形状に制御することが可能です[3]図1)。
 今まで示してきた試作例はおりがみに例えると、谷折りだけからなる構造です。構造を工夫することで、山折りと谷折りからなるマイクロオリガミを作製することも可能です[4]。  図に示すように板が基板と平行を保ったままで起き上がるマイクロステージの試作例を示します (図2)。

4.光半導体素子の試作例
 以上は基本構造の作製例ですが、光空間通信の鍵となるデバイスの実現を目指して研究を続けています。
4-1 駆動機構を有するミラーアレイ
 前述のミラーあるいはレトロリフレクタにおいて、入射光ビームの反射する方向を制御するために、電気的その他の方法により駆動が必要となる場合があります。マイクロオリガミに電極を付与することで電圧をかけて駆動し、反射光の方向を自由に制御できることをすでに確かめています(図3)。
4-2 方向性光検出器
 半導体単結晶からなるマイクロオリガミ構造の特徴を活かして、光検出などの種々の半導体機能を立体構造および基板上に付加することが可能です。図4は、マイクロオリガミを衝立として、光の来た方向を検出することが可能な光検出器の設計試作例です。

5.おわりに
 「おりがみ」とは、「おる」という行為と「かみ」という材料の組み合わせからなる概念です。複数の面と面とが折り目を介して連動し、複雑な立体構造が出来上がります。
 種々の光半導体機能を有する複数の板が連動して立体形状を作るという概念をさらに発展させることで、さまざまな応用が開けるのではないかと考えています。
 レーザなどの発光素子との一体化のための設計・作製技術の検討等、機能デバイスの実現にはいくつかのクリアーすべきハードルが有りますが、上記マイクロオリガミの特徴を最大限に活かした応用の実現に向け今後も検討を重ねて行きたいと考えています。



参考文献


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