
2次元マイクロキャビティレーザ
1.はじめに
2次元マイクロキャビティレーザは、2次元全方位にレーザ光を出射する新しいタイプのレーザです。このレーザを用いると、これまで実現困難であった指向性と高出力特性とを併せ持つ微小レーザを実現できます。このため、将来の光無線ネットワークや光電子集積回路など様々な分野で活用されるものと期待されています。
2.レーザとは
レーザ光線と言えば、1次元的にまっすぐ進む強い光の代名詞と言ってよいでしょう。ところで、なぜこの光は1次元的なのでしょうか。その答えはレーザの構造にあります。図1のような通常のレーザでは、鏡の間を光が何度も往復し、レーザ媒質とよばれるものからエネルギーを受け取ります。このエネルギーは電流として常にレーザ媒質に注ぎ込まれています。
このように、鏡の間を往復する光は、レーザ媒質を通じて電流のエネルギーをどんどん吸収して強い光となり、レーザ発振が起こります。したがって、レーザ光が1次元的に出射されるのは、2枚の鏡によって光を閉じ込めるという構造のためなのです。
3.2次元マイクロキャビティレーザ
これに対して、私たちは、2次元形状をしたレーザを考えました。このレーザでは、周囲がすべてミラーとなっているため、出力光が2次元的になるのが大きな特徴です。従来1次元的であったレーザキャビティをこのように2次元的なものとして実現できるのは、半導体レーザ作製技術とドライエッチングという加工技術の進歩のおかげです。2次元マイクロキャビティレーザは、このような最先端テクノロジを用いて初めて作製可能な全く新しいタイプのレーザなのです。
4.マイクロスタジアムレーザ[1]
ところで、どんな2次元形状を用いてもレーザ発振可能でしょうか。もしそうなら、具体的なそれぞれの応用に適した出射光パターンを持つように、2次元形状を簡単に設計でき、とても便利です。
そこで、まず、レーザ発振がもっとも難しいスタジアムとよばれる形状の2次元マイクロキャビティレーザについて調べました。ここで、なぜスタジアム形状ではレーザ発振が難しいのか、説明しましょう。
図2には、スタジアムにおける2つの光線軌道が描かれています。青はずっと左右に往復し続ける軌道です。一方、赤は初め青からほんの少しだけずれてスタートする軌道です。すると、赤はすぐに青から離れて複雑な軌道を描きます。図1のような1次元レーザでは青のような単純な光線軌道しかないのでレーザ発振が容易です。ところが、スタジアムの場合、光線が非常に複雑な動きを示すため、レーザ発振を行うことが難しいのです。
私たちはマイクロスタジアムでレーザ発振が可能であり、図3(a)のような発振パターンとなることを理論的に示しました[1]
。また、図3(b)に示した半導体量子井戸を用いたマイクロスタジアムレーザを実際に作製し、レーザ発振の実験に成功しました。このように、マイクロスタジアムのレーザ発振が理論と実験により示されたことによって、2次元マイクロキャビティレーザの有効性が明らかになりました。
5.モードロッキング[2]
他にも、2次元マイクロキャビティレーザの理論から、1次元レーザにはない特徴が解明されています。それはレーザ発振パターンが図4のように非対称になる場合があるということです。
この非対称なパターンは、図5に示した2つのレーザ発振パターンがレーザ媒質を通じて互いに影響し合い最終的に協力して作り上げた合体パターンです。このような2つのパターンの協力現象はモードロッキングとよばれています。
6.擬似スタジアム型レーザ[3〜5]
スタジアムレーザを横方向に細長くすると、図1のような従来のレーザとの類推が容易なので、応用を考えるのに適しています。このような横長スタジアムを擬似スタジアム型レーザとよんでいます。私たちは、このタイプの2次元マイクロキャビティレーザで、図6に示すような2種類の発振パターンが可能であることを、理論と実験により明らかにしました。
図6では分りにくいのですが、両端のミラーはスタジアムと同じように少しだけ丸くなっています。このため、レーザ光を(a)のように真横に出射する場合と(b)のように2方向に出射する場合があるのです。(a)の場合のレーザ発振パターンを軸モード、(b)の場合をリングモードとよんでいます。
7.モード制御
擬似スタジアム型レーザの2種類の発振パターンを制御できれば、レーザ光の出射方向を切り替えることができます。私たちは、電流の注入方法によってレーザ光の出力方向をコントロールできることを実証しました[5]。さらに、5で説明したモードロッキングが擬似スタジアムでも起こり、これを用いると、より自由な出力方向制御が可能であることも明らかにしています。これらの技術は、光無線ネットワークはもとより、光電子集積回路における光源・光配線・光スイッチなどのキーデバイスになることが期待されています。
8.おわりに
ナノテクノロジの重要性が増している現在、光学部品の微小化は必須です。レーザを微小化するためにも、特別な共振器形状によって光を効率良く閉じ込める2次元マイクロキャビティレーザは大変有効です。ATRでは、この新しいレーザに関して、理論から試作・実験まで含めた総合的な研究開発を行っています。
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