ロボットがネットワークにつながって
僕たちの生活に飛び出てくる



総務省情報通信政策局 研究推進室長 渡辺 克也



ロボットとユビキタスネットワーク
 ロボット技術は、我が国のフラッグシップ・テクノロジ−の一つです。事実、産業用ロボット分野においては、日本製が世界の約6割を占め、世界を席巻している状況にあります。しかし、産業規模は平成12年(2000年)では6,475億円(生産額)、平成13年(2001年)では4,064億円(生産額)と減少傾向にあり、近年の国内の不況による設備投資削減やロボット単価の値下がり、さらに生産工場の海外移転の問題などから、厳しい状況になっているのも実情であります。
 一方、現在、ユビキタスネットワーク社会の早期実現に向けて、産学官での種々の取組が行われています。ネットワークの一層の高度化・高機能化が進展する中で、一つの端末にとらわれず、いつでもどこでもあらゆるものが接続できる、十分な伝送容量を備えたネットワーク環境が実現される社会−それが「ユビキタスネットワーク社会」です。
 ユビキタスネットワークが、家庭やオフィスでの利用が期待されるパーソナルロボットや業務用ロボット等とつながる(「ネットワーク・ロボット」)ことにより何がおきるのか? 単にロボットが高性能化するだけでなく、新たなライフスタイルが創出され、高齢化・医療介護問題等の様々な社会的問題への対応が図られるばかりでなく、21世紀の日本発 新IT社会の構築にも貢献していく。「ロボット」と「ユビキタスネットワーク」という日本の2つのフラッグシップ・テクノロジーのドッキング。この融合は、日本のIT社会にとっても大きな起爆剤になる可能性を持っていると思っています。

ネットワーク・ロボットの世界
 ロボットがユビキタスネットワークとつながることにより、どのような変化があるのか。ロボットが自ら欲しい情報をネットワークから探すエージェントロボットになったり、ユーザーフレンドリーなネットワーク・ヒューマン・インタフェースを備えた「情報端末」に、また、様々なユビキタス・アプライアンスがロボットに。ネットワークから見れば、ヒューマノイドだけではない、3次元バーチャルなものも情報家電も、部屋も都市空間もロボットになる。それが「ネットワーク・ロボット」の世界だと思います。
 その実現の大きな鍵は、ユビキタスネットワークとロボットを結ぶネットワーク技術の研究開発、標準化であります。欧米においても産学官による様々なプロジェクトが積極的に推進されております。その流れの中で、日本が世界に先駆けて、ネットワーク・ロボットの分野で、世界をリードするコア技術を確立することが急務であることから、総務省では、「ネットワーク・ロボット技術に関する調査研究会」を平成14年(2002年)12月から開催し、ネットワーク・ロボットの将来イメージを明確化するとともに、取り組むべき研究開発課題・標準化課題、実現による社会的・経済的効果、実現のための推進方策等、いわば「ネットワーク・ロボット実現に向けた日本戦略」策定への処方箋作りを行っております。

ネットワーク・ロボットの実現に向けて
 ネットワーク・ロボットの実現は、家庭やオフィスなどの社会生活スタイルがインテリジェント化され、高齢者・医療介護問題等、様々な社会的課題に寄与するだけでなく、21世紀の新たなビジネス創出等、ロボットと生活する新たなライフスタイルの実現への推進剤になるものと思っています。また、その取り組みは、まさしく今始まろうとしています。しかしながら、具体的な研究開発プロジェクトを中核に、「研究開発」、「環境整備」、「国際的な協調の推進」と、取り組むべき方策は数多く、その一つひとつを着実に進めていく必要があります。
 例えば研究開発でも、これまでは開発成果が実用化されずに埋もれた例が少なからずあり、やはり成果をそのつど社会実証に照らして実用化できる方向へ持っていかなければなりません。それに伴って、グローバル・スタンダードを獲得できるような研究体制も構築する必要があります。また、途中経過をしっかり評価しながら進める仕組みも必要です。オープンなインタフェース環境を想定し、種々の新たなサービス・アプリケーション創出等のための実証実験のための場作りも重要な課題です。
 また、これからの知的財産活用を考える際には、シビアな国際標準化競争に勝ち抜かねばなりませんが、一方で国際的な協調も戦略の枠組みとしてクリアしていくことが必要です。さらに、ロボットを実環境に導入・利用するための、法制度も含めた利用環境の整備が望まれます。
 ネットワーク・ロボットの実現にあたっては、このように研究開発的な側面だけでなく、国際対応、利活用方策の検討も含めた種々の取り組みに早急に着手しなくてはなりません。その意味から見れば、「ネットワーク」と「ロボット」の双方の視点を有しているATRの取り組みに対する強い期待を持たざるを得ません。特に、コミュニケーション・ロボットの先導的研究をしてきたATRに対して、質の高い先進的な研究を行うCOEとして指導的な役割も期待されていくものと思われます。
 手塚治虫の鉄腕アトムでは、本年、2003年には、アトムが生まれ、ロボット法が制定され、人間と楽しく生活する世界が描かれています。その世界の実現には、まだしばらくの時間が必要でしょう。ただ、ロボットがネットワークにつながって、僕たちの生活に飛び出てくる、その世界は、すでに目の前にあると思います。
 その世界の実現に向けて、日本が今後とも「ロボット」分野のトップランナーでいられるかどうかは、これからの数年間にどのような戦略をもって対応していくかにかかっており、その一翼はこれからのATRの活動が担っている。私はそう思っています。