ユビキタス技術を支えるアドホックネットワーク

Ad Hoc Network in Ubiquitous Society


適応コミュニケーション研究所 蓮池 和夫、小宮山牧兒



1.アドホックネットワークとは
 電話機が有線からコードレス電話機へと発展し、線(コード)から解放されて動き回りながら電話ができるようになり、さらに携帯電話の登場で、家の中から街へと移動できる範囲が大きく広がりました。データ通信でも同様に有線のLANから無線LAN、IMT2000へと、線からの解放、移動範囲の拡大へと発展し、ユビキタスネットワーク社会の到来が近いことを感じさせます(図1)。
 しかしこれらの移動通信も、まだまだ本当にどこでもというわけではなく、膨大な数の基地局やアクセスポイントなどの存在が前提となっており、その地理的、容量的な制約を受け通信ができない場合もあります。例えば、災害によるインフラストラクチャの崩壊や、サッカースタジアムなどに許容範囲以上の人数が集まった場合には通信ができない場合が出てきます。
 これに対し、基地局などのインフラストラクチャに依存せずネットワークを構成しようという考えがあります。これは、どんな場所でも、その場限りのネットワークが組めるということで、アドホックネットワークと呼ばれ、将来のユビキタスネットワーク社会を支える重要な技術の一つと考えられます。

2.アドホックネットワークの研究開発課題
 アドホックネットワークでは、従来のネットワークを構成するためのインフラストラクチャの構成要素である基地局やルータなどの機能を各PDAなどの携帯端末(ノード)に持たせ、必要に応じて中継や経路選択を行う必要があります。
 従来、アドホックネットワークは、軍事用や高速道路での車車間通信などでの応用を中心にいろいろな研究が行われてきました。特に、無線チャネルを共有し、効率よくデータ転送をするためのメディアアクセス制御 (MAC)プロトコル** 、および動き回るノードからなる流動的なネットワークトポロジーに対応した経路選択を可能とするルーティング*** プロトコルの研究が盛んに行われてきました。
 最近では、アドホックネットワークでは必須である中継のための電力を節約することや、ノードが集中した場合の同時通信数を増やすための周波数有効利用のために、特定の方向にビームを集中できる指向性アンテナの研究が進み、これを用いたMACプロトコル、ルーティングプロトコル、およびこれらに基づくネットワークの構成法の研究が必要となってきます。この他、アドホックネットワークの実現のための要素技術としては、アーキテクチャ、トランスポートレイヤ、物理レイヤ、セキュリティ、アプリケーション、エネルギー管理など多岐にわたっています。

3.経済効果
 今後来るユビキタス社会においては,あらゆるものに小さな計算機が埋め込まれ,それらが通信しあい、ネットワークを構成することになります。ウェアラブルな端末機器(小さな計算機が埋め込まれた服や時計・メガネ・指輪など)と身の回りの小さな計算機が埋め込まれた端末(机やイス・食器棚・冷蔵庫・車など)・人間社会に入り込むであろう各種ロボットなどとの間の、あるいはそれら同士の間のネットワーク技術としてアドホックネットワークは最有力であると考えられます(図2)。
 携帯電話によるデータ通信市場の予測では2005年には3兆円規模となるといわれています。2010年以降に実現されるユビキタスネットワーク社会においては、端末数が現在よりも一桁以上増え、恐らく十兆円規模は下らない市場となるでしょう。このうちの数パーセントをアドホックネットワーク技術が支えるとした場合にも、アドホックネットワークを利用した通信の市場は年間数千億円規模となることが期待されます。


参考文献