


E−ナイチンゲール・プロジェクト
E-Nightingale Project
メディア情報科学研究所 所長 萩田 紀博
「ユビキタス」という言葉がブームになっている。Mark Weiserはユビキタス・コンピューティングを「目には見えないが、いろいろな大きさや形を持つたくさんのコンピュータが、人と絶えず情報をやりとりする世界」と呼んだ。ユビキタス・コンピューティングによって、「いつ、どこで、なにが、だれに、なぜ、どのように」という5W1Hの情報を取り出す環境が整えば、今後の社会や産業界への影響は計りしれない。すなわち、これからは、何気ない一日の出来事でさえも新たなビジネスを生み出す可能性を持っている。
例えば、病院の看護師の仕事。患者の状態を定期的に観察し、食事や身の回りの世話をし、昼夜を問わず、予期せぬ緊急事態に対処しなくてはならない。そして、この過酷な一日の締めくくりとして、疲れた頭で看護日誌をつけなくてはならない。医師も看護師も忙しすぎて、せっかく書いた日誌も皆で情報共有することが難しい。このような環境がユビキタス・コンピューティングに適している。多忙な看護師の5W1H情報を自動的に記録・分析することによって、看護業務の効率化や「ヒアリ・ハット」の防止、看護と医療の質を高めることができ、結果として病院の経営を改善する可能性が出てくる。まさに、事件は現場で起きており、それを医師や看護師が情報共有して業務の質を改善するためにこの技術は役立つのである。このような考えに基づき、ATRは、ある病院と看護師一人ひとりの行動を自動的に記録・分析する「E−ナイチンゲール」と呼ぶ、研究プロジェクトを開始した。ナイチンゲールは近代的看護や医療における看護婦の地位を確立した人として良く知られているが、看護に科学の手法を取り入れ、さまざまな工夫をした。病棟の衛生状態と患者死亡率との関係を克明に分析し、その結果を比較するために円グラフを考案したのもその一つだ。「E−ナイチンゲール」もナイチンゲールの業績を称えて、21世紀の新しい看護の道具立てにしていこうという目的で名付けた。