A ll for one, one for all




(株)ATR音声翻訳通信研究所 代表取締役社長 山本 誠一



 私は、本年(平成9年)6月にKDD研究所を辞し、ATR音声翻訳通信研究所の山崎社長のあとを引き継ぐことになりました。ATR音声翻訳通信研究所の設立趣旨は、「異なる言語を用いる人が互いの言葉の違いを意識することなく自由かつ円滑に意思疎通を図ることのできる電気通信を実現するため、音声認識技術、音声合成技術、翻訳技術、音声言語統合処理技術等、自然な音声の認識と翻訳のための基盤技術」を開発することであり、それを残された3年弱の間に達成することが要請されています。
 当所の研究者の多くは、当所の設立主旨に呼応して、国からの出資に協調して出資された多くの企業からの出向者です。研究テーマや自由な研究環境を反映して、様々な国籍を有する外国人研究者も多数参加しています。個々の研究者の文化的なバックグラウンドや組織に対する考え方についてはかなりの違いがあり、均質でないあるいは個性的な集団です。
 組織にとって人は最大の財産であるとよく言われますが、新しい考えや技術を産み出すことが使命の研究組織には特に当てはまると考えます。「自然な音声の認識と翻訳のための基盤技術」の開発は、個々の研究者の独創的な発想と意欲に依存すると言っても過言ではありません。意欲的に課題に取り組むには、基本的に研究者本人の興味を有する課題に、自分が最も適切だと信じるアプローチで取り組む、すなわち個性的であるのが一番です。組織や集団はそのような個人の創意に基づく自由な取り組みを支援するために存在する、すなわち“All for one”です。
 出向期間や契約期間が過ぎて、新たな天地で活躍する際にも、当所での活動が活かされる、すなわちATR音声翻訳通信研究所に在籍したことが個人の財産とならなければなりません。そのためには、音声認識・合成や翻訳技術に関する各個人の個別研究テーマの成果を世に出すと共に、当所のミッションである「自然な音声の認識と翻訳のための基盤技術」の開発を達成し、当所が今以上に一層、音声、言語処理の研究機関としての名声と内容を高める必要があります。優れた研究機関に在籍したという実績と共に、協力して大きな事をこなした達成感を共有すること自体が個人の優れた財産になります。
 自分自身の夢や目標を持ち続けると共に、組織の目的を理解しそこに貢献しようという意志を持つ、そんな個人が組織の活力の源泉です。すなわち、“One for all”の精神です。
 山崎前社長を始め多くの先人の深い洞察と強い意思によって、優れた業績を残してきた当所の発展に、このような“All for one, one for all”の気持で微力ながら最善を尽くす所存です。
 引き続き、関係者のご理解、ご支援をお願いいたします。