


社長に就任して
(株)ATR人間情報通信研究所 代表取締役社長 一ノ瀬 裕
去る6月20日の株主総会および取締役会にて、ATR人間情報通信研究所の代表取締役社長に就任いたしました。よろしくお願い申し上げます。
人間情報通信研究所については皆様ご承知のことと思われますが、設立されてから既に5年が経過していますので、あらためてここで簡単に紹介させていただきます。当研究所の試験研究プロジェクトは、正式名が「ヒューマンコミュニケーションメカニズムの研究」で、3つのサブテーマ(「音声言語情報生成機構の研究」、「視覚情報生成機構の研究」、「情報生成統合機構の研究」)から構成され、「人間の情報生成・情報処理の優れた機能に学んだヒューマンインタフェース要素技術の確立」を目的にしています。平成4年にATRの5番目のプロジェクトとして開始され、平成13年に終了する9年に渡るプロジェクトで、その試験研究費総額は160億円(当初予定)です。平成8年度末の時点で、出資していただいた企業の数は67社に上り、資本金は100億円弱になっています。現在、当研究所は1課6研究室および1特別研究室から構成され、70名以上が勤務しています。平成9年度は当プロジェクトの6年目に当たり、最大出資機関である基盤技術研究促進センターの規定に基づいて、本年10月には第2回中間時試験研究報告を提出しそれに対する技術評価が行われることになっています。
個人的には、学生時代に1年半ほどの短い期間ではありましたが、内耳の三半規管の奥の蝸牛(かぎゅう:その名の通りかたつむりに似た組織)の中にある基底膜と呼ばれる膜が耳の外から入って来る音によってどのように振動して音の周波数を判別しやすくしているかという聴覚に関係する研究に携わり、また、就職してからも最初の10年ほどは、電話機に使用する送話器、受話器、ベルなどの音響部品をどのようにして小さく安くかつ高感度にするかということや遠隔地を電話で結んで会議を行うシステムに使用する会議用マイクロホンをどのようにして発言者の声だけを拾って周囲の雑音は拾わないものにするかということなど音によるヒューマンコミュニケーションに関係する研究開発に従事していました。その後は現在に至るまでこれらにほとんど縁のない仕事をしていましたが、若いときに経験・記憶したことは時間の経過によってもあまり薄れることはないようで、当研究所の研究者の間で飛び交う言葉の中にもときどき懐かしい専門用語が聞こえることがあります。もっとも、一昔前の中途半端な知識が当研究所での今後の仕事に多少なりとも役にたつのかあるいは邪魔になるのか、当人にとっては期待と不安とが相半ばするスタートでもあります。
ロケットに例えるならば、皆様のご支援により当研究所は打ち上げ後5年間、安定した軌道を確保し順調に飛行できているようです。とりあえずは東倉前社長のプログラムにしたがった操縦を行いながら、1日も早く自分なりのプログラムを追加できるように努力し、この軌道をさらに大きく広げるとともに次の新しいロケットにも点火することを目指そうと思います。今後の展開に向けて関係者の皆様の変わらぬご協力、ご支援を心からお願い申し上げます。