ATRのこれからの研究活動に対する期待




京都大学工学部 教授 長尾  真



 3年前に創設されたATRは、これまでの大阪での仮住いの間においても非常に活発な研究を行い、多くの研究成果をあげてきたが、ここに新しい研究所の建設と実験設備が完成するにおよんで、ますます研究が進展しようとしていることは大変よろこばしいことで、心よりお慶び申し上げます。
 研究者の数も4研究所を合わせて200名をこえ、研究論文の数も既にかなり多く、特許出願数も順調に増えているという。またこの間にATR主催で開催した国際的な研究集会もいくつかあり、有意義な国際交流が行われてきた。その結果、世界各国からATRの研究が注目され、その成果が評価されてき、諸外国からの短期訪問者の数は非常に多く、また長期滞在の研究者の数もかなりの数にのぼっている。このように、これまでの3年間のATRの研究活動はあらゆる点からみてすばらしい。日本でも良い研究者を集め、よい研究環境を与えれば、このようなことが可能だという見本のようなものであり、我々研究者にとって非常に心強いものである。科学技術を進展させるものは人と研究環境であるということが改めて認識されるのである。
 さて、ATRはいよいよ安住の地を得て、これまでの仮住いではやりにくかった種々の実験環境もよく整備され、本格的に腰をすえて研究を行う時期となった。関西文化学術研究都市の第一号の研究所として、ここでこそ研究者本来の使命である独創的な研究ということに再度心をいたし、質の良い研究成果をあげるべく一層の努力をしていただきたい。
 この研究所の使命は、大学の基礎研究と民間企業の研究開発の中間という難しい位置づけを与えられて出発した。米国は最近、Common Base-Technology(共通基盤技術)という新しい概念を打ち出し、これを米国の科学技術政策の中で最も力を入れてゆくものとしはじめたが、これは正にATR設立において我々がねらったものなのである。少なくとも、数年前からここに目標を定めて研究所を設立すべきであるとし、それが今日ATRにおいて実質的な展開をしつつあるのを見るにつけ、我々の目指していたものが正しく、また先見性のあったものであることがよくわかる。
 ATRの研究がよい環境を得て、これから一層発展し、世界をリードしてゆくことを祈りたい。