ATRの研究開発への期待




日本電信電話株式会社 代表取締役社長 山口 開生



 今年は日本での電話事業創業から数えて99年目、来年には100周年を迎えます。1890年に東京と横浜で200人足らずのお客様を対象に電話交換サービスを開始して以来、この1世紀の電気通信の発展は全く想像を絶するものがあります。19世紀後半に生まれたこれらの技術は、20世紀に入ってエレクトロニクス技術の画期的進歩によって、日々、進歩、改良を繰り返し、私達の生活になくてはならないインフラストラクチャとして今日の社会に定着しています。そして、それは20世紀の社会のあり方にも大きなインパクトを与え、今や、情報化社会と呼ばれる時代を迎えるに至っています。
 このような科学技術の進展と社会との係わりは今後一層密なものとなり、21世紀における私達の生活は、いままで以上にこれからの科学技術の行く方に大きく影響されることは明らかであります。それだけに研究開発に従事される人々への期待は大きく、また、責任は重大であります。21世紀の高度情報社会の基盤となる新しい科学技術の創造にむけて、ATRへ期待するところきわめて大なるものがあるゆえんです。
 日本の電気通信技術が、世界のトップレベルにあることは、疑いのない事実でありますが、よく言われます様にそれは主に応用技術の分野であります。今後は、このような応用技術のみならず、来るべき高度情報社会を支える確固たる基盤となるような基礎技術における貢献が世界から求められています。我々の前には、新素材、エレクトロニクス、ソフトウェアさらにライフサイエンスやバイオテクノロジなど、挑戦すべき未踏の分野が無限に広がっています。特に、ATRに期待したいのは、この様な革新的な基礎研究への積極果敢なチャレンジと世界への貢献であります。
 私共NTTは、ATRの輝かしい成果を期待して、その設立と運営に最大限の協力をしてまいりました。今後も互いに手を携え、また競い合いながら、良きライバルとして、共に世界の基礎研究の振興に努めたいと思います。
 関西文化学術研究都市に完成した新しいATR研究所が、21世紀の高度情報社会を支える技術と文化の世界への発進基地としての役割を果たされんことを心から期待するものです。