ATRジャーナル発刊に際して





代表取締役副社長 研究企画本部長 葉原 耕平



 「基礎研究」それは何とも難しく響く言葉。多くの方はそのようにお思いではないでしょうか? それは一面で事実でありましょう。だからこそハードルを超えた時、研究者にとっては、その喜びは何物にも代え難い大きなものであり、さらにその成果が、いつの日にか世の中で役立つなら、それは研究者冥利に尽きるというものでありましょう。
 「基礎研究」は確かに高度かつ難しい内容への挑戦であります。しかし、そのことと研究内容を平易に述べることとは別問題であります。いや、むしろ問題が解明された暁には研究が本質的なものである程、結果は単純明快という場合が多く見られます。基礎研究には、そのような単純明快さを追求するという一面があると言ってもよいかも知れません。
 一方で基礎研究には独創性が必要だとしばしば言われます。しかし、その美名にかくれて視野の狭い独りよがりに陥ることは厳にいましめなければなりません。それ故、私は研究者に、自分の研究の位置づけや手法などをできるだけ簡明に表現することを意識づけして参りました。それは、その作業が研究者の頭の整理に極めて効果的であることを体験的に知っているからでもあります。併せて周囲に良き理解者を得るという意味でも大切なことであります。基礎研究の重要性が叫ばれている今日、それは研究者の義務でもありましょう。
 そのような訳でこのジャーナルでは、読んで下さる方、つまり第二人称の立場の方に如何に判って頂けるか、そのように努力して参りたいと考えております。御陰様で、ATRには新進気鋭の若手研究者が揃って参りました。彼らの眼はキラキラと輝いております。しかし若手故に未熟な面も多々あろうかと思います。虫のいい話ではありますが、研究者には「平易な表現」のための修練の、そして喜びの場にも利用させて頂こうと考えております。御叱責が何よりの励ましであります。関係各位の御支援を切にお願いする次第であります。