環境適応通信研究所発足に当たって




(株)エイ・ティ・アール環境適応通信研究所 代表取締役社長 小宮山 牧兒



 環境適応通信研究所は、「環境適応通信の基礎研究」をテーマに1996年3月発足し、試験研究期間7年、研究費総額119億円が予定されています。環境という言葉から、地球環境などのエコロジーを思い浮かべる方も多いと思いますが、ここでの環境はenvironmentを意味し、通信環境の変化に柔軟に適応できるマルチメディア情報通信システムの基盤要素技術の確立をその目的としています。
 インタネットの出現や、情報・通信機器の急速な進歩に伴い、私達の日常生活に類似した生活空間(いわゆるバーチャル空間)がネットワーク上に準備されつつあるなど、情報通信システムを取り巻く通信環境は近年複雑化し激しく変化しています。今後、情報通信システムに対しネットワークの有効利用や輻輳の回避、新しいサービスや機能の追加・変更のし易さ、大量のマルチメディア情報をどこからでも利用者の好む形態で伝送することなどが益々要求されてくるものと思われます。このため、将来の情報通信システムの基本特性として、環境の変化に対し自らの機能・構造を自律的に再構成し適応する能力が重要な概念になると指摘されています。
 本プロジェクトでは情報通信システムにこのような機能を実現するため、4つの課題に的を絞り研究を実施します。第1の課題は情報通信システムの構成・評価技術に関するもので、ここでは人間や生体の恒常性維持、自己変革、学習等に代表される環境適応機能を学びまねると共に複雑システムの概念・解析手法を用いるというかなり大胆な研究アプローチ法により、適応性を持つネットワーク構成法の解明を目指します。第2の課題はネットワーク制御技術に関するもので、ここでは適応性のあるネットワークの端末、ノードに必要となる制御機能・アルゴリズムの研究及び大容量情報の高速信号処理法を開発するため、量子通信処理などの新しい信号処理法の研究を行います。
 情報通信システムの環境適応性の観点から、ネットワークへのアクセスが空間に拘束されないという特性は重要な課題となります。第3の課題は無線通信の空間接続構成技術に関するもので、ここでは電波、光を用いた無線通信の高機能化を目的として、移動端末と基地局の関係が多対多にある空間を自由自在に接続できる無線通信システム構成法、信号処理技術、アンテナ等について研究します。第4の課題は通信デバイス技術の研究で、ここでは前記3課題を基盤で支える新しいデバイスの実現を目的として、量子ナノ構造を用いた光非線形素子、量子ナノ構造間の相互作用を利用した信号処理素子、カオスを利用したダイナミック機能デバイス等の研究に取り組みます。
 「人に学ぶ」は、ATRのキャッチフレーズの一つになっていますが、図に本研究課題とATR他3社の研究対象、手法の位置付けを示します。当研究所は、ソフトとハードの両方の研究分野からなっており、この特徴をいかした研究成果をあげるように努力する所存です。今後ともご指導、ご支援をよろしくお願いします。


プロジェクト概要(予定)

試験研究期間:1996年3月〜2003年2月(7年間)
試験研究費総額:119億円