デバイス研究とパートナー企業との連携



適応コミュニケーション研究所 小宮山牧兒



 ATRにおけるデバイス分野の研究者は、設立以来の延べ人数で見ても少数派に属する。現在は、無線アドホックネットワークの電波による通信を補完する光無線のためのデバイス研究開発を行っている。過去7年間に、報道発表した、もしくは著名雑誌に取り上げられた研究成果をあげると、専門用語が多くなるが、偏波安定化面発光レーザ(,96.12)、量子カスケードレーザ(,00.06)、マイクロオリガミ(,01.06)、マイクロキャビティレーザ(,03.02)、LED(発光ダイオード)アレイ(,03.03)となる。マイクロオリガミは、その技術的特徴がNature誌で紹介され、またマイクロキャビティレーザはPhysical Review Letters誌の表紙に採用された。
 当所のデバイス研究は、ガリウム砒素(GaAs)、特にGaAs高指数面の特徴を活かした光デバイスを中心に進めてきている。少数派であるが、この領域では世界的にも注目される独創性の高い研究成果に結び付けてきたと自負している。一方、デバイス研究は、膜質、接合面の平坦度等が臨界点ともいうべきあるレベルを越えないとデバイスとしての特性が出ず、いわば準備期間に多くの時間を費やし、直線的に進捗する例は極めて少ない。このため、研究のフェーズが他の要素技術と違い、プロジェクトの中で整合性をとるのに苦心することが多い。また成膜装置、評価装置等は一般に高価で、研究資金も大きくならざるを得ない側面を持っている。
 現状の研究資金の枠組みの中で、ATRのデバイス研究を成果展開という視点からどのように方向付けるかで、現在転換期に差し掛かっている。一般論で言うと、企業が通常実施する目的の明確・具体的な研究開発課題の先を狙いつつ、かつ大学、国立研究所の課題と比較して、それほど遠くない先に応用の展開、波及効果が見えているテーマを選定すべきということになる。もう一つのなぜATRで実施しなければいけないかに応えるには、ATRの独自技術の発展、もしくはそれと、別の技術を組み合わせたデバイス開発というのが一つの答えになる。この二つの条件を満足させて、具体的に方向を示すのは簡単ではない。
 マイクロキャビティレーザの研究は、理論検討、多層膜成長、デバイス評価を当所で実施し、デバイス設計と評価の一部を共同研究先の大学が、デバイス化を外注という形で実施し、極めて順調に進展してきている。当所のリソースを考えた場合、研究を、我々だけで閉じて実施するのではなく、このような形を積極的に取り入れていくことが、実施体制の上でも重要であるし、さらに進めてATRのパートナー企業(パートナー制度に関しては、当社ホームページに記載)に共同研究者として参加して頂くことで、成果展開への道筋も開けてくるのではないかと考えている。
 今回の特集号では、当所のデバイス技術の応用的側面を強調して、四つのトピックを紹介している。昨今の製品開発よりの研究への過度の偏りを見直し、5年から10年先を見据えた研究を強化する企業の例を、最近いくつか見聞きしているが、本特集号が、当所とデバイスに関して共同研究を検討するきっかけとなることを、是非期待したい。