ATRジャーナルの誌面刷新にあたって





編集長 東田 正信




 ATRジャーナルはATRが1986年に設立されて一年後の87年4月に創刊されました。当初は、R&D各社の株主に対するATRの研究状況についての情報提供と、ATRに集う研究者間の情報交換の場を主要な目的としていたと聞いています。その後94年春の第15号からそれまでのB5判からA4判に改訂され、これまでに42号を数えるまでになりました。
 この15年の歳月の間にはATRを経験した後に他の研究機関に職を得て移られた方々、出向元の会社に戻られた方も増え、これらの方々がATRの最新の研究内容を知る縁としても利用されるようになっています。皆様のおかげで今では3,000部の発行部数を数えるまでになり、広く読者の方々に親しんでいただいております。
 ATR設立に当たっては、研究資金提供の方法として出資制度を採用したために、いただいた出資金を資本として研究活動を本来の業務とする株式会社を興し、資本金で研究活動を展開し、その結果を各種研究成果(特許、テクニカルレポート、ハード/ソフトウェアプロダクト等)の資産に変え、これらの資産を外部に販売、使用許諾する等の方法で現金収入を得て、ご出資いただいた国や民間企業各社様に配当することで研究会社としての存続を図るというシナリオになっていました。しかしながら、十有余年の歳月を経過したのちに振り返ってみますと、すばらしい数々の研究成果を輩出し、世界にも名を馳せるセンターオブエクセレンス(COE)ができたことは事実ですが、残念ながらご出資いただいた資本金に見合うだけの成果販売収入が得られる見込みが極めて小さいことも明らかになり、引き続き出資制度に基づく研究資金の提供を受け、株式会社としてR&Dを運営することが困難な情勢になってきました。
 このような状況をふまえて、関係各方面で今後の方向を検討していただいた結果、出資制度に基づく研究体制の見直しを行い、現行のR&D会社を終息するとともに、今までの研究活動を終了させ、現在まで成果管理会社として運営されてきた会社も併せて清算することになりました。ATRとしての研究活動そのものはATR-Iで引き続き継続できることになり、その研究費は資本金としてではなく、国からの研究委託費を獲得するという形で確保することになります。新制度は、予算、関連法案がすべて成立したのち実施に移されますが、実際に研究活動が開始されるのは、公募、選定等の諸手続を終えた年度後半からになると予想されます。
 このため、新研究制度が発足する本年度の最初の発刊となる本号から、誌面を一新することといたしました。雑誌の名称は親しまれている名前をそのまま使うこととしますが、表紙のデザインを通年で使用できるようにしました。内容に関しても、ATRでの研究状況ができる限りわかりやすく読者に伝えられるように、各R&D活動紹介のスペースを設け、併せて外国からの客員研究員等を支援している「SHIEN」のこぼれ話などをも掲載することといたします。一方で、誌面の都合等でこれまで親しんでいただいた記事で割愛したものもあります。また、記録的な内容はできる限りホームページの方でご覧いただくようにし、読み物の内容を充実させることに心がけました。この結果、これまでの情報提供的な側面に加えて、ATRのすばらしさが伝えられるような広報的な側面も強く打ち出せるようにしたいと思います。
 読者の皆様には、刷新された本誌を楽しんでいただきたいと思います。また、お気づきの点は是非編集局までお知らせください。誌面の充実に生かせるご意見は是非反映させていただく予定です。今後とも本誌をご愛読いただけますようお願いいたします。