「ロボビー」:ロボットの社会参加に向けた
コミュニケーションテクノロジー




1.はじめに
@@summary_begin@@  現在、工業用ロボットと違った観点でロボットが開発され、中には、商品として売られているものまである。今まさにロボットは、工場から飛び出し、人間の生活の場に登場しつつあるといえる。我々は、ロボットが人間社会に参加した際にどのようなコミュニケーションの能力が要求されるのかを研究するため、日常活動型ロボット「ロボビー」を開発した。本稿では、人とロボットのコミュニケーションの問題点を、ロボビーの紹介を通して説明する。

2.ロボットからの依頼
 ロボットが人間社会に参加し人とコミュニケーションしている状況を考えると、人がロボットに命令するだけでなく、ロボットも人に何かを依頼するといった双方向のコミュニケーションの必要性が出てくることが予想される。しかし、現状のロボットは、人から頼まれた作業を淡々とこなす道具としての存在である。
 我々は、ロボビーの開発にあたり、ロボットが人に依頼する際に起る現象について、心理実験を行った[1]。結果を先に述べると、ロボットが人に依頼するためには、お互いの間に何らかの関係が成立している必要があるということが分かった。
 以下、簡単にこの実験について述べる。実験は、被験者の前に現れた移動ロボットが、「ゴミ箱をどけてください。」と合成音声で被験者に依頼するものである(図2)。
 実験では、人とロボットの関係のあるなしが、ロボットから人への依頼に影響を与えるか調べた。人とロボットの関係の構築には、CGエージェントの移動を用いた。CGエージェントは、図1の左上の携帯端末上のCGキャラクタである。また、ロボットも、図1の右下に示すディスプレイを持ち、CGエージェントを表示できる。実験は、被験者が、携帯端末上のCGエージェントとインタラクションしている状態(関係を持った状態)から始まる。実験では、携帯端末からロボットへCGエージェントが移動することによって、人と関わるきっかけをロボットに与える。
 図2および図3に結果を示す。CGエージェントがロボット上に移動した場合の被験者は、「ゴミ箱をどけてください。」とのロボットの依頼に素直に従い、ゴミ箱をどけた(図2)。CGエージェントがロボット上に移動しない場合の被験者は、突然現れた見ず知らずのロボットを無視した(図3)。
 以上の結果を踏まえると、ロボットから人に依頼をする場合には、前もって、なんらかの関係が人との間に成立している必要があることが分かる。

3.ロボビー
 ロボビーは、人と関係を築きながらコミュニケーションするロボットを実現するために開発された。基本的には、頭と腕といった、人と似た身体を持ち、上半身の振舞いによって、人との関係を築く。下半身は、移動台車となっており、自由に移動することができる。
 図4にロボビーの全身写真を示す。ロボビーは、片腕に4つの軸を持ち、人の腕に近い動きができる設計となっている。また、腕の付根自体が、前方へオフセットされており、ロボビーの体の前面に腕を容易に伸ばすことができる。よって、より自然なジェスチャーを作り出すことができるようになっている。頭部は、3つの軸をもったカメラ台となっている。
 その他の基本仕様は表1に示す。

4.関係性に基づくコミュニケーション
 ロボビーは、上記のハードウエアを用いて人とロボットの関係性に基づくコミュニケーションの実現を狙っている。
 人とロボビーの関係を作る上で、最も重要となるのがロボビーの視線の動きである。特に、人とロボビーがお互いの目を合わせるといったアイコンタクトが人と関係を結ぶ上で重要になってくる(図5左)。
 さらに、ロボビーは、視線を、コミュニケーションにおける他の機能にも使っている。この機能とは、実世界の情報に対して、ロボビーがどこに注意を向けているかといったことを、人に表出することである。図5中央では、箱への注意を表出している。
 ロボビーでは、アイコンタクトによる人との関係構築および、実世界の物に対する注意の表出によって、「箱を退けてください」と言ったことを人に依頼することが可能になっている(図5右)。

5.まとめ
 本稿では、我々が開発した日常活動型ロボット「ロボビー」を紹介した。一般的に、ロボットは、音声入出力やセンサの技術が成熟すれば、人となんの障壁もなくコミュニケーションできると思われている。しかし、我々の行った実験は、ロボットが人とコミュニケーションする際に、ロボットが人と関係を作り出していくといったインタフェースが必要であることを示していた。そこで、人と関係を作り出すために必要なハードウェアを盛り込み、ロボットの人間社会への参加といった研究を促進するためのプラットフォームとしてロボビーを開発した。
 現在、ロボビーは各種の展示会に出展され、ロボットとのコミュニケーションの可能性を示したことで高く評価された(図6)。また、当研究所では日常活動型ロボットコンソーシアムを定期的に開催し、ロボビーの研究を大学機関と共同で展開している。@@summary_end@@
  ホームページ http://www.mic.atr.co.jp/~michita/everyday/

参考文献


Copyright(c)2002(株)国際電気通信基礎技術研究所