会計ビッグバンから何を学ぶか



(株)国際電気通信基礎技術研究所 経理部長 上田 泰男





日本の各企業に何が起きているか
 2000年3月期の決算は、日本の各企業にとって歴史的なターニングポイントとなりました。2002年までに国際ルールの会計基準の導入が義務づけられ、それによる財務諸表を作成しなければならなくなったのです。具体的には連結対象範囲の拡大、研究開発費の原則(資産計上でなく)費用化、売買目的有価証券の時価評価、退職金や年金の将来必要支払額の全額積み立て等です。
 そしてこれらの財務に与える影響は企業の存亡にかかわるほど大きいものであり、「会計ビッグバン」と呼ばれ、単に会計制度の変更にとどまらず、企業のマネジメントにその対応を迫っています。例えば子会社の整理統合や、土地や有価証券の売却や評価損の計上、退職金・年金の積み立て不足額の計上や、なかには退職金制度そのものを見直す企業まで現れています。
 では、なぜそれほどの影響があるような制度を導入しなければならなくなったかというと、これまでの日本のルールによる財務諸表について「いわゆる“飛ばし”などの損失隠しや上げ底的な経営が表面的な化粧で隠されており本当の実態を表していない」として、国際的に信用を失ったからなのです(信用を失うということは、金融市場における資金調達困難につながる)。そこで信用回復のため、国際ルールを導入して偽りのない財務の実態・実力を明らかにするということを表明したわけです。


会計ビッグバンのATRへの影響と意味するもの
 では、ATRへの影響ですが、研究開発費の扱いについて、研究用ソフトウェアは従来、資産に計上していたのですが、今後新たに購入するものは基本的に費用として計上することになりました。しかし、それ以外については軽微になる見込みで、全体としても世間の企業に比べれば影響は小さいといえます。それは、ATR各社が上場会社でないことや銀行からの借入が実質的にないことなどにより、制度の適用範囲が限定的であったり、資金調達への直接の打撃を受けないからです。
 しかし、このことを表面的・短絡的に捉えて安心してしまうというか世の中の潮流に気付かないということにむしろ注意しなければならないと私は思うのです。というのは、今般の会計ビッグバンの本質は単に新しい制度の導入にあるのではなく、企業のウソ偽りのない裸の実力を明らかにすることを世の中が求めてきたという点であり、この「本当の実態・実力しか世界では通用しない、もはや化粧はきかない」という流れは企業の財務諸表という範囲に限らず、政治、スポーツ、芸術、もちろん研究の世界にも求められてくると思うからなのです。
 さらにATRにとってということで考えると、今後の研究体制のあり方が最大の懸案事項ですが、これについて各方面の方々と議論し、あるいはご理解いただくうえで「ATRの本当の実態・実力」をきちんと表すことが従来以上に強く求められてくると思うのです。PRについては、これまでも秋の研究発表会、株主総会時の出資会社との意見交換会や研究活動状況報告会、マスコミや見学者への積極的な対応、また、最近ではホームページでの紹介など意欲的に行なっています。しかし、上述のような観点で今一度「ATRの本当の実態・実力とは何か」を再確認する必要があると思います。そして、これまでの有形無形の成果について世の中にきちんと納得してもらうため、お手盛りの評価と言われることのないよう、また、逆にアピール不足にならないよう情報発信やコミュニケーションに取組むことによって信用と信頼を築いていくことがますます重要になってきているのではないでしょうか。