自然景観の見え方と動きのリアリティを仮想空間中に再現する
−実写画像からの樹木のモデリングとアニメーション−



1.はじめに
 コンピュータグラフィクス(CG)で作られた映像を、テレビや映画などで目にする機会が非常に増えてきました。例えば先日公開された映画「スターウォーズエピソード1」では、舞台となる惑星や主人公を助けるクリーチャー等が全てCGにより描かれて話題を呼びました。今やCGは映像制作に欠かせない要素となっています。しかし、これらのCGを作成するためにはどうしてもアーティストの手作業が必要で膨大な時間と費用が費やされていました。
 当研究室では、実際には距離を隔てた人物同士の、仮想的な環境を介したコミュニケーション手段の創出を目標にしています。このようなコミュニケーション環境は通常CG技術を用いて作成し、任意の視点からの見え方の再現や動きの表現を行います。しかし、仮想の環境を全てCGで作成するのは、先に書いたように時間と費用の点から効率的ではありません。そこで、実写映像を利用することが考えられます。従来、複数台のカメラ画像のステレオマッチングの原理でシーンを三次元復元することが行われてきましたが、視点を移動すると実カメラから見えない範囲のデータが欠落する問題が発生します。またこの方法では動きの再現が不可能でした。
 そこで、私たちは実写映像を利用し、CG技術を駆使して自然景観の見え方と動きの双方のリアリティを再現する手法を検討しています。ここでは、自然景観を表現する上で最も重要な要素の一つである「樹木」を検討対象として取り上げます。

2.写真から樹木の三次元モデルを作る
 実在の樹木の見え方と動きの双方のリアリティを再現するために、私たちは実写画像を利用して樹木の3次元CGモデルを生成することにしました[1]。実在の樹木をモデリングしようとすると、まず1章で述べた画像処理を用いる手法と、アーティストの手作業による手法が考えられますが、1章で述べた問題があります。一方、CGの分野では、フラクタル1や樹木の成長ルールに基づく手法が検討されてきましたが、リアルな樹木画像は生成できるものの実在する樹木のモデリングには適していませんでした。
 私たちの手法の原理を図1に示します。実在の樹木を複数方向から撮影した写真から、樹木の全体的な形を再現するため、図1のように各画像における樹木のシルエットを三次元空間に投影し、それらの交わりとして定義される立体(ボリュームデータ)を得ます。次に、樹木の見え方を決定する枝構造を生成します。そのため、原画像から幹や枝、葉の茂った部分に対応する可能性の高さを示す評価値を求めて、ボリュームデータ内に記録しておき、枝セグメント(円柱のブロックで、枝構造は枝セグメントを適宜接続することにより生成する)をボリュームデータ内で伸ばす際に、前述の評価値の高い方向に枝が密に存在するようにします。ここで、枝がボリュームデータから突き出たり、ねじれのような不自然な成長が起きないようなルールを開発しました。このようにして得られた枝構造に対して、あらかじめ作成しておいた葉のモデル(テクスチャーは原画像を利用)を各枝セグメントに取り付けることにより、図2のような樹木の三次元モデルが完成します。

3.仮想の風に揺れる樹木
 樹木は岩のような剛体ではなく、風が吹いたら揺れたり、人が手で枝を掴んだらたわんだり、というように、外界からのインタラクションに応じて変形したり、動いたりします。2.章で生成された樹木モデルに要求される機能として、このようなインタラクションに応じた動きを表現できることが重要です。樹木モデルの動きを表現する従来の手法としては、枝セグメントの接続点の運動だけを考慮に入れ、枝セグメント自体の運動は考慮に入れていないものがほとんどであったため、動きの表現の品質に課題を残していました。
 これに対して、私たちは図3に示すように、各枝セグメント毎に独立に、外力(風、人の手等の力)、外力への抵抗力、隣接するセグメントとの接続点における回転摩擦力を考慮に入れた運動方程式を構築しておき、各時刻毎の運動を計算するようにしました[2]。この計算には、各セグメントの接続条件を入れていませんので、運動計算の結果、隣接するセグメントは離れてしまいますが、枝構造全体の整合性を考慮に入れた手法により、システマチックに枝セグメントを接続します。
 樹木モデルにおける動き表現の例を図4に示します。仮想の風に吹かれて樹木モデルが揺れる様子が大変リアルに、かつ実時間で行える目処が得られました。

4.おわりに
 実写画像からの樹木の3次元モデリング法について紹介しましたが、実在の樹木への近似精度の向上、より多くの種類の樹木への拡張、が残された課題です。さらに本手法を自然景観の他の物体にも拡張し、最終的には誰もが簡単に映画が作れるようなシステムの実現を目標に、研究を進めていきたいと考えています。

参考文献


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