〜日本の発展のための革新的イノベーション!〜


(株)国際電気通信基礎技術研究所 代表取締役副社長 吉田 匡雄



 日本経済は1950年の朝鮮戦争から始まった奇跡的な高度成長を40年間続け、その後、バブル崩壊の過程を経て、90年代に入って既に6年を超える長期的な不況に喘いでいます。日本企業の「強さの源泉」と言われてきた終身雇用制や年功序列制などが、不況に耐えるリストラの中で音を立てて崩れつつあり、メインバンク制の下で企業を支配して来た日本の銀行も、不良債権問題で大変な苦境にあります。また日本企業の強さの象徴であった「系列」も、電器や自動車産業の急激な生産の海外シフトで崩壊し始めています。
 このようなメガ・トレンドの変化の中で、日本は今までのような活力を再び取り戻せるのだろうかといった懸念が、今日本中に拡がっています。日本が高度成長を遂げる中で、経済構造が今までの開発途上型の経済、即ち所得水準が低く、多くの国から技術を吸収する余地が残されている状況から、所得水準が高くなり、外国からの技術吸収では競争力を維持することが困難になった先進国型経済に移行したと見るべきでしょう。先進国は通常コスト条件が悪化しており、特に日本は円高の進行により高所得・高コスト国になり、今までのように技術を外国に依存する改善・改良型の「漸進型イノベーション」だけでは競争力が維持出来なくなり、世界を先導するような「革新的イノベーション」を開発し、コスト競争力をつけることによってのみ、経済成長の達成が可能となって来ます。日本では高齢化、少子化の進行、労働時間の短縮により、21世紀にかけてかなりの速度で労働インプットが減少します。また高齢化は家計の貯蓄率の低下をもたらし、資本インプットの拡大に歯止めがかかります。一国経済の潜在成長力は労働や資本といったインプットの拡大と生産性上昇をもたらす技術進歩の程度に依存すると言われています。21世紀にかけて、日本の成長を実現するためには日本社会の構造改革が画期的に進み、革新的なイノベーションがダイナミックに生まれるような経済体質に生まれ変わるしか道はないと考えられます。
 では、革新的なイノベーションはどんな研究から生まれてくるのでしょうか。日本は基礎研究にただ乗りしているという欧米からの非難を受けて基礎研究重視の方向が打ち出され、科学技術基本法でも基礎研究の積極的な振興を謳っています。このことは先に述べたように、日本が外国からの技術吸収で競争力をつけるというキャッチアップ型の経済発展から、自ら基本的なコンセプトを創り出す革新的な技術開発によってのみ成長するという先進国型の経済発展に移行せざるを得なくなったという事情と一致しています。基礎研究に対する応用研究、開発研究の分類は明確に区分しにくく、境界に曖昧さが残りますが、独創性のある創造的なブレークスルー型のイノベーションを生み出すのは、やはり基礎研究を惜いて他にはないでありましょう。今後の日本の経済成長率は1〜2%程度しか見込めず、高齢化、少子化、労働時間の短縮により日本の財政は益々逼迫します。こうした中でその限られた資金を有効に使って、革新的なイノベーションを生み出すために、基礎、応用、開発の研究の各段階の役割を産官学の中でどう分担するのか、構造改革が求められている今こそ、各界が資金面、人材面の責任について認識を新たにすべきではないでしょうか。
 ATRにおける研究開発が基礎研究の一翼を担い続け、日本だけでなく国際的な発展に大いに貢献できると確信しています