ATR研究成果の社会への還元
(株)国際電気通信基盤技術研究所 取締役企画部長 和佐野哲男
ATRもお蔭様で10年目半ばを迎え、学術面での成果として、約5,000件にのぼる国内外学術論文の発表、さらに世界的に権威のあるIEEEを初めとする学術団体からの毎年の受賞など、内外から高い評価をいただけるようになってきており、現場の研究者も大いに張り切っております。
また、産官学の研究人材育成において、約720名(外国籍170名を含む)のOB研究員を輩出し、それぞれの方々は幅広い分野でご活躍をいただいております。
この結果、常時総研究員の20%にあたる40〜50名の外国籍研究員が滞在し、内外の大学や主要な研究機関との間で共同研究や研究者の相互交流を行うなど、国際的な最先端研究拠点の一員に加えていただける様になって来ております。
一方、産業面では、約600件の特許出願、さらに科学技術庁の注目発明表彰の連続受賞などの成果を挙げるとともに、93年にはATR内に開発室を新設し、研究成果を活用したユニークな製品として音声研究用の標準データベース、ATRヒヤリングスクールやアルツハイマー病診断システムなどの普及を進めております。
しかしながら、産業面での研究成果のなお一層の普及が、10年目を迎えたATRにとっての最重要課題であり、今回は巻頭言をお借りして、出資企業様を始めとする産業界のリーダーの方々に、一層の御協力と御支援をお願い致したいと思います。
その際、産業面での成果普及の最も基本となるのは、実際ビジネス環境を熟知され、世の中のニーズを一番理解されている出資企業の皆様の『知恵』です。もちろん、ATRの研究は長期にわたる基礎的・独創的研究なので、研究テーマや研究手法の選択には、研究者の創意工夫を最大限認めていただかなくてはなりませんが、『研究資金』を出すからには、その研究成果の活用にはどしどし『知恵』や『協力の手』を出して頂きたいと思います。研究内容が基礎・独創指向とはいえ、その成果の産業面での活用を忘れてはならず、『知恵』や『協力の手』を出していただくことが、ATRの研究をさらに活性化することに繋がると確信しております。
昨年11月に開催しました第8回研究発表会の機会にも御紹介させていただきましたが、現行の仕組みにおいても、ATR研究成果の出資企業様での活用には、
(1)研究員出向制度を利用した研究初期段階からの商品化取り組みのスタート
(2)共同研究形態を利用した研究成果のビジネス面での評価
(3)イニシャルペイメント無し特許利用方式による初期投資リスクの小さな成果利用
(4)開発室による技術移転に対する支援サービス
など、多くの便宜が用意されています。さらに、成果の事業化を促進するための新たな仕組み作り(個々の企業のビジネス展開にとって有効な特許利用など)について、改善検討を進める予定です。
学術進歩への貢献に加え、産業面への貢献の両輪が揃うことによって、真のATR研究成果の社会への還元がなされると考えており、今後とも、パートナー企業さんとの連携に努力していく所存ですので、御協力と御支援を宜しくお願い致します。