アイデアを作り出す技法


ATR視聴覚機構研究所 代表取締役社長 淀川 英司



 ATRでは「電気通信分野における基礎的・独創的研究の推進」ということを第一の基本理念としている。では、具体的にどのようにすれば独創的研究を推進できるのであろうか。独創的研究と言えるためには、まず、そこに何か新しいアイデアがなければならない。普通、アイデアは個人の無意識的・直観的発想によって得られるものであり、その良し悪しは個人の素質と能力で決まると考えられている。もしそうならば、独創的研究を行っていくためには、アイデアの創出について優れた素質と高い能力をもつ研究者を集める以外に方策はない。誰にでも、良いアイデアを作り出せるような一般的方法はないものであろうか。幸いにもそのような方法があるのである。これまで、アイデアの作り方についていくつかの著述がなされている。それらの内容は互いに若干の差異はあるもの、本質的なところでは一致している。次にジェームス・W・ヤンの著書から、そのエッセンスを紹介したい。
 アイデア作成の基本原理として、まず次の二つをよく理解することが大切である。第一に、アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせであるということである。第二は、既存の要素を新しい組み合わせに導く才能は、事物間の関連性を見つけ出す才能によって高められるということである。
 さて、アイデアを作り出す具体的方法を述べることにしよう。アイデア作成のプロセスは次の五つの段階に分けられる。その順序にも重要な意味があり、どの段階にもそれに先行する段階が完了するまでは入ってはならないことに注意する。第一段階は二種類の資料集めである。課題に関する特殊知識と、様々な事象についての一般的知識を豊富にする。第二段階は集めた資料を十分咀嚼することである。あたかもジグソー・パズルを組み合わせるように、各事実をいろいろな視点から眺めてその意味を考え、事実間の関係を探る。このとき、事実をまともに直視しない方がよい。また、この段階でちょっとしたアイデアが出てきたらそれらを紙に書きとめておく。この段階をいかに徹底的に考えぬくまでやるかがアイデア創出の鍵となる。第三段階では、問題を全く放棄する。これは問題を無意識の世界に移すことを意味する。そして、たとえば音楽を聴いたり、映画を見たりして、想像力や感情を刺激する。第四段階はアイデアの誕生である。この段階は何の予告もなく訪れる。最後の第五段階では、現実の有用性に適合させるためにアイデアを具体化し、展開させる。誕生したアイデアを世の中で生かすためには、しまいこまずに外に連れ出し、いろいろな人々の批判を受けなければならない。
 以上の技法は意識して用いることにより、磨き鍛えることができる。そして、誰でもアイデアを作り出す能力を高めることができる。私自身もこの技法を意識して用いてきており、既にいくつかのアイデアを得ている。その経験からも、この技法を身につけることは確かに非常に有効であるということができる。皆さんも是非この技法を実際の研究課題の解決に適用して欲しい。