TR-O-0125 :1996.3.15

下川信祐

通信網の発達に伴うトラヒック理論の 機能的困難と克服への展望

Abstract:今世紀初頭,A.K. Erlangは通信網やその要素を評価する為の形式的枠組みを定式化した(1908年,[1]). 以来,網の開発・運用における基本的な考え方と見做され,通信技術の発達に伴って改良が加えられて新しいシステムの設計を支えてきた(例えば,[2]). 今日この枠組みはトラヒック理論(または待ち行列理論)と呼ばれる.しかしながら,近年の要素技術の著しい発達は,トラヒック理論の適用を次第に困難なものとしつつあることが認識されはじめた.本研究では,この問題の重要性と基礎的性格に注目し,問題の構造解明と解決策の獲得を目指した.複雑性ダイナミクスと計算論的視点に基づく分析を通して,困難の構図を明らかにした.また,解決策となる新しい枠組みについて,基本的な方向性を得ている. 本章では問題の概観を述べると共に,独立した内容を持つ次章以下の検討を統合して本研究の到達点を明らかにして問題解決の見通しを展望する.