今岡俊一
ミリ波帯多層化MMICの研究
Abstract:モノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)は、無線装置等の小型化・低価格化を図る有力な回路技術として各方面で積極的な研究開発が行なわれている。ATR光電波通信研究所では、MMICの超小型化を目的として、GaAs基板表面に金属・誘電体薄膜を積層し、伝送線路として機能させる多層化MMICを提案、検討がなされてきた[1]-[13]。多層化MMICでは伝送線路の小型化・線路交差・線路変換が容易にできるほか、線路を積層化した回路構成も可能で、新しい回路構成の実現や設計性の向上が図れる。しかしながら、その適用周波数帯はマイクロ波帯(~30GHz)が中心で、移動通信のマルチメディア化に対応して近年注目されているミリ波帯への適用例は少ない[13]。特に増幅器等の能動回路に多層化MMICを適用した例は無かった。そこで本研究では、ミリ波帯で動作する小型・高機能MMICを多層化MMICにより設計・試作し、得られた特性と設計性から、その有効性を確認する。
本報告は、まず基本となる多層化MMICによる薄膜伝送線路のミリ波特性(~60GHz)について述べ、次に回路構成上で重要な役割を有する方向性結合器について、既に提案されている積層化方向性結合器[10]-[11]のミリ波帯(50GHz)への適用結果を述べる。これら受動回路について述べた後、能動回路を構成する上で不可欠なトランジスタの取り扱いについて述べる。次にこれらの情報を元にして設計・試作したミリ波帯平衡型増幅器、及びSPDTスイッチについて述べる。また、MMICチップを縦方向に積層するスタックICの提案を行ない、このICに適用可能な構造を持つミリ波帯増幅器の試作結果について述べる。