TR-C-0018 :1988.10.11

手塚集

暗号研究の現状

Abstract:この報告書は、昭和61年11月から昭和63年10月迄の2年間、筆者がATR通信システム研究所のセキュリティ・グループで行った暗号研究の際に調べた事柄を整理したものである。 全体は、3部にわかれている。第1章では、暗号方式についてまとめた。従来か らの分類に従って、ブロック暗号とストリーム暗号の2方式に分けて研究の現状を整理した。ブロック暗号では、秘密鍵方式としてDES、公開鍵方式としては素因数分解の難しさに基づくRSA方式および離散対数計算の難しさに基づくEIGamal方式を採り上げた。素因数分解と離散対数計算はこの分野ではよく利用される代表的問題である。ストリーム暗号に関しては、ヨーロッパで伝統的に研究されている非線形シフトレジスタ方式を取り上げた。また、最近話題になっている暗号 的に強い乱数についても簡単にまとめておいた。第2章では、暗号プロトコルとい う題名の下に、鍵配送・管理及び認証方式についてまとめた。鍵配送・管理は、大規模なネットワークでは、重要なテーマである。鍵配送・管理センターを設ける場合の方式として、現在研究の盛んなID-based方式のうち、岡本(栄)鍵配送方式を採り上げて説明した。また認証方式としては、メッセージ認証・個人識別 ・デジタル署名についてZero-Knowledge-Interactive Proofも含めてまとめた。認証は、最近普及し始めたEFT(電子資金移動)技術などで重要な役割を担っているので、将来不可欠な技術である。しかし、暗号技術も含めてこの分野は、いま盛んにいろいろなアイデアが提案されている状況なので、数年で消えてしまうようなものも含めたかもしれない。また、こういう種類の技術は実際に世の中で使われなければ意味がないという点では、使いやすさや標準化にもっていくための諸々の要因のほうが、理論的なエレガントさなどよりはるかに重要であろうから、今後の理論的発展がどの程度実用となる技術に貢献するの か判断しにくい所がある。最後に、第3章では、インプリメンテーションというこ とで、RSAのVLSI化アルゴリズムとGF( 2 n )上の高速演算アルゴリズム についてまとめた。