今岡俊一
結合度可変方向性結合器の研究
Abstract:無線通信において不可欠な要素のひとつである高周波回路部において、信号の分配・合成回
路は各種機能回路実現にとって重要である。本研究では多層化MMICの技術を用いて適応機能
を有する高周波分配器の実現を目的とした。具体的には分配比(結合度)を制御電圧によって自
在に調整できる方向性結合器の実現を目指した。本機能を有する分配器が実現すると、図1に示すような
分配器と減衰器あるいは移相器で構成する回路が簡略化でき、また、トランスバーサル
フィルタにおいては通過帯域の調整が可能となる。
ATRでは多層化MMICの研究を行い、多くの成果を挙げてきた[1]-[9]。その一つである
「浮遊導体を有する方向性結合器」[7]では、従来の平面回路構成では困難であった密結合の方向
性結合器を実現、ミリ波帯への適用も可能であることが示されている[8]。しかしながら、これま
では本来、結合3線路である本方向性結合器を仮定を用いることで、浮遊導体を独立した線路と
見做さずに結合2線路(4ポート回路)として取り扱ってきた。そこで本研究では、浮遊導体を
第3の導体とし、結合3線路(6ポート回路)として扱う解析を行い、本構造の結合3線路の伝
送特性を平易に予測できるモデル化を行った。これにより6端子全てが外部回路と接続可能とな
り、本構造の特徴である浮遊導体端の入力インピーダンスが低いことを利用して、その端部にイ
ンピーダンス可変素子を接続する構成で、分配比に選択性を有する結合器の実現を図った。試作
ではその基本動作を確認し、さらにシミュレーションで最適な構成を検討した。
本報告は、まず結合3線路の伝送特性解析で現在認知されている手法について述べ、これを
用いて「浮遊導体を有する方向性結合器」が、特性解析上で特殊なケースであることを示す。次
に本構造に適用出来る静電容量を用いた簡略化モデルについて述べ、簡単な電磁界解析で求めら
れる線路定数から、かなり正確にその伝送特性を求められる事を試作結合線路の実測値とモデル
を用いた計算値を比較することで示す。次に、本結合器の特徴を利用して、導体端に接続した可
変インピーダンス素子の状態を変化させて分配比を調整できる回路の検討を行う。ここでは可変
インピーダンス素子として可変抵抗(varistor)を用いた回路を試作、実測結果から基本動作を確
認すると共に、シミュレーションによって可変容量素子(varactor)を用いた時の回路動作につい
て検討する。