コラム


先輩の「ATR視聴覚機構研究所」との一年間の同居生活。所帯は別々であったが同じ屋根の下で、姑、小姑もおり当初は苦労の連続であった。また、「ネクタイ・カバン・日本人・サラリーマン」の世界から、「ノーネクタイ・ナップザック・外国人・研究者」の世界へと異国に来たような、一種のカルチャーショックがあったが、いずれも月日が経つにつれ徐々に解消された。慣れたところで、企画課のカウンターの中から研究者を見ていると、なぜかシルクロードの交易の町を、異情報、異文化という宝物を携え往き来する旅人のように思えた。

元 企画課長 川畑 芳彦
(現 日本電信電話(株)大阪研修センタ エンジニアリング研修部門 担当部長)




古都とハイテクは相性が良いようだ。1992年2月に新プロジェクトの準備のためにATRに異動し、奈良に引っ越して、まず家族が喜んだ。ちょっと散歩に出れば、教科書でしか知らなかった史跡にすぐに出会う。家内は早速奈良の歴史教室に通いだし、専門家のガイドつきで寺社めぐりを始めた。私の方は、家族が古都を楽しんでいるのを幸いに、家庭サービスを放り出して研究プロジェクトの具体化に頭を絞ることができた。数千年の歴史を昨日のように感じることのできる環境の中では、「人間は、進化、発達、適応等の様々な時間スケールの環境との相互作用を通じて動的に変化するシステムである」という言葉が自然に響く。この4年間の様々な研究成果は、この言葉に科学的な裏付けを与え、この言葉は、プロジェクトの成果を将来の社会に還元するための座標を与える。やはり、ハイテクは古都に限る。

第一研究室 室長 河原 英紀




この夏、私の住んでいるジョージア州アトランタで開催されるオリンピックから「けいはんな」での未来オリンピックがひらめいた。それはロボットオリンピックであり、最初の競技ロボットを作るのはATRである。様々な人の動きが可能で、「見まね」や実際の練習から学習するのは勿論、コーチや熟練者からのアドバイスを活用できるヒューマノイドロボットである。はたして我々は人間より利口なATRロボットを作れるだろうか。答えは多分イエス。では人間より優雅で軽快な動きをするロボットはどうか。これは非常に難しい。なぜなら筋肉のように柔軟で、軽いモータがないからだ。しかし、人や生物に学べば、重いモータでも大丈夫な制御理論を作れるだろう。
けいはんなオリンピックのルールはどうなるだろう。ロボットと人間が競い合うのだろうか。答えは多分ノー。競技ロボットの大きさやパワーへの制限はどうか。ヨット設計の革新を競うアメリカズカップのように、どんな設計でも許すことがよいロボット作りのキーポイントだ。ロボットは競技に向けてどんな学習をするのだろう。練習も必要ないほど完璧なプログラムが開発されるのか、人間の技術者チームの手助けを借りるのか、はたまたロボット自身の練習によって学習するのか、興味津々である。いずれにせよ、我々がここATRで、人の学習のメカニズムを理解し、利口な学習理論を開発できることを期待する。

米国ジョージア工科大学 教授 Christopher Atkeson〔ATR研究滞在歴4回〕