技術の実用性


(株)ATR環境適応通信研究所 代表取締役社長 小宮山 牧兒



 日本における携帯電話(PHSを含む)の加入台数が、1999年度末に固定電話の加入台数を上回る見通しとのことです。携帯電話サービスが開始されたのは、わずか十数年前の1987年です。この爆発的普及は、サービスが利用者に受け入れられたことに加えて、低価格化、小形軽量化が進んだことの寄与が大きいとされています。
 携帯電話に代表される移動通信は、これからは単に音声だけではなくデータ、画像等の種々のメディアを伝送するマルチメディア移動通信の展開が必須となり、これに向けての研究開発が精力的に行われています。
 当所でも関連した研究を行っている「ミリ波」、「アダプティブアレーアンテナ」、「マイクロ波フォトニクス」は、移動通信のマルチメディア化を実現するための基盤技術と目されていますが、実用性という観点からすると、低価格化のハードルが依然として高く、現状では性能が最も重視される軍事応用に留まっているのが大半であるという点が共通の特色として挙げられます。
 「ミリ波」を例に取りますと、1970年代半ばまでのミリ波導波管による大容量、長距離伝送を目指した研究開発が終焉してから、1980年代後半に「ミリ波」に対する関心が再び高まり、現在は車載レーダ、室内LAN、WLL(無線アクセスシステム)等への応用で「ミリ波」ルネッサンスの到来という言い方もされています。しかし、未だ多くの「ミリ波」応用では、デバイス、部品の高価格が実利用の主要な阻害要因となっています。最近では、ミリ波回路を集積化したMMIC技術の進展により低価格化も大分進行してきてはいますが。
 ATRでは、その基本理念上、技術の先端性、独創性をまず第一に追求するのが通例ですが、最近当所では、「アダプティブアレーアンテナ(アレーアンテナの各アンテナ素子の出力に重み付け等の信号処理を加えることにより、所望波のみを適応的に受信できるアンテナ)」およびマイクロ波と光技術の融合により新機能の発現を目指す「マイクロ波フォトニクス」で、簡略化、低価格化につながるアプローチを取り、面白い成果が出ています。前者の例では、従来は、信号処理を全てディジタル処理で行う研究が主流となっており、多数の高周波回路を必要とするため実用性に欠ける点があったのに対し、信号処理の一部をマイクロ波帯アナログ回路に担わせることにより実用性に富んだ方式を提案しました。現在、シミュレーション実験の段階ですが、特性的にも従来法と同等以上の値が得られており、学界から注目されています。後者では、2台のレーザ光源から安定なミリ波を作る際、従来は2台とも高価で高品質なレーザを用いていたのに対し、一方を安価な汎用レーザを用いることにより、従来法よりミリ波の周波数可変範囲が大幅に広い、実用性の高い方式の開発に成功しました(詳細は、本号の「研究動向紹介」20ページに掲載)。
 当所のプロジェクトも中間点を過ぎ、まとめのフェーズに入って来ています。実用性も十分意識して、複眼的な視点から研究を進め、収束に向けていきたいと考えています。