新研究所設立に向けて


(株)国際電気通信基礎技術研究所 代表取締役副社長 東 洪利



 平成11年3月期は、赤字決算の会社が続出した。しかも銀行を始めとして従来優良企業と言われてきた日本の中心企業が赤字に転落している。そのため今年は黒字の会社も含めて、さらにリストラ、合併等を進め、必死になって生き残り、業績向上をめざしている。
 現音声翻訳通信研究所の後継プロジェクトとして計画をしている新設の研究所については、現在、出資希望調書を基盤技術センターに提出し審査をお願いしている段階であるが、それと並行して、上記の厳しい状況下において年初から、民間会社からの出資依頼に奔走しているところである。ATRが発足して早や14年になるが、この間、我が国も経済的、政治的にも大きな変革の時代を経験し、各出資会社様を訪問させていただく中で、ここ2、3年問題が顕在化してきた出資制度に基づくR&Dの研究費用調達方法、基礎基盤研究に対する費用負担の考え方、ATR自体の研究活動・成果の対外的な見せ方等に関して、結構辛口のご意見を頂戴することも多かった。
 一方で、各社の担当の方々から、
  ・国の研究所や民間単独企業の研究所と違い、産・官・学がうまくマッチして機能している。
  ・自由度の高い、開かれた研究所であり、外国人研究者が20%を超えるというのは日本では類を見ない。海外での評価も高い。
  ・ATRに出向した研究者は必ずレベルアップして戻ってくるので、教育機関としても評価できる。
  ・けいはんな学研都市の中心的存在であり、学研都市といえばATRの名が必ず出てくる。
などと、ATRに対する高い評価のお言葉もいただき、関係者の方々が綿々と築いて来られた今日のATRの国際的な研究所としての確固たる地位に思いを新たにしたものである。
 今回の活動を通じて、私どもATRの経営を担当する立場として改めて認識しなければならないと感じたのは、
  ・ATR設立当初に比べ、基礎基盤研究に対する社会認識、出資会社の経営環境
  ・ATRが担当している先端技術分野に関する出資各社の希望テーマ、成果への期待
等が大きく変化しているということで、次世代に向けての研究体制の検討に活かしていきたい。
 ともあれ、今回の次期プロジェクトに関する出資については、厳しい中でも各社の協力を得られる見込みで感謝の意を表したい。新プロジェクトに関して一つ強調するとすれば、基礎研究をより深めることは当然だが、研究スケジュールのスピードアップを図るとともに第3フェーズになれば第1・2フェーズの承継研究という観点からも、より実用化に近い研究、あるいは実用化との接点が求められる。
 どこまで応用研究に近づくかは難しい判断だが、少なくとも成果を活用する動き(共同研究等)を強化するよう努めなければならない。そのため、新研究所の中に研究者とは別に担当を置くか、現在の開発室をより強化するなどの施策を模索したいと考えている。そして、もっと積極的にATRグループとして研究の成果を外部に発信していきたいと思っている。
 研究者の皆さんには特に次のことを期待している。
 まず、某製薬会社の会長が「ウチの研究者は全員ノーベル賞を取るつもりで頑張っている」と言っておられるが、皆さんにも常にこういった気概を持って研究に臨んでいただきたい。
 また、ATRが社会から求められているものは何であるのか、自分たちの研究は社会のニーズに合っているのか、今一度考えていただきたい。自分たちの研究は要素研究であり、応用研究とは必ずしも結びつけにくい面もあるが、こういったことを考えてみることも必要ではないかと思う。
 来年西暦2000年はATRにとって大きな節目の年になる。現音声研が終了し、新音声研がスタートする年である。続いて人間研も2001年2月には終了するので、後継プロジェクトを検討する必要がある。全員で21世紀のATRのあり姿を考え、その目標に向かって着実に前進する年としたい。