


流行と個性
−若き研究者にキラリと光る個性ある研究を期待する−
(株)ATR音声翻訳通信研究所代表取締役社長 山崎 泰弘
最近はミニスカートが流行のようである。久しぶりに銀座に出てみた。すっかりスタイルがよくなった若い女性がミニスカートを身につけて闊歩している光景が目に飛び込んでくる。この傾向は出張で立ち寄ったベルリン、パリでも同じである。どうやらミニスカート世界的流行のようである。結構なことだ。ここで少し注意深く観察してみると流行のなかにも色々と個性を発揮すべく工夫しているようである。ハンドバックと靴を金色に統一し、ツンとすましている人、ブラウスと色柄を併せてさっそうと通り過ぎていく人など実に個性豊かに自分を主張しているのである。
そもそも「流行」とはその時代のはやりであり、大勢と同じ傾向になることである。一方、「個性」とは大勢とは違った自分らしさを発揮することである。したがって流行と個性はある意味で相反する概念であり、この両者を調和させるためにはそれなりの努力と工夫が必要である。
流行はファッションの世界に限ったことではなさそうである。心理を追求する学問・研究の分野でも、程度の差はあっても流行があるようである。通信の分野では、今や、移動体通信や光ケーブルの研究開発は花盛りであり、マルチメディアへのフィーバは過熱気味で新聞紙面で活字が踊っていない日はないくらいである。研究開発もおのずとそちらの方向に向かわざるをえなくなる。
学問・研究の分野での流行はそれ自体決して悪いことではない。学問・研究の分野での流行は単なるはやりではなく、先達たちの地道な努力の積み重ねであり、ある面では今までの失敗に対する貴重な反省も含まれているからである。さらには新しい時代の需要、期待を反映している場合も少なくない。
私たちの研究においても流行を無視するわけにはいかない。ただ、この流行の中で自分の研究の目標と位置付けをはっきり自覚しないと、流行に流され、埋没してしまう恐れがある。重箱の隅をつつくような作業を研究と思い違いをしてしまうのである。研究の本質を見極め、時には他の人と違った視点から考え直すことも重要ではなかろうか。基礎的、独創的て、ある面ではリスキーな研究を使命とするATR研究所においてはなおさらそうである。研究の面で個性を発揮することは、ファッションで自分を主張するほど容易ではないけれど、キラリと光る個性豊かな研究を期待したい。とくに、若い研究者には。新しい発見・新しい発明の突破口になるからである。