見たいところから特殊眼鏡なしで立体的に見える



1はじめに
 ATR通信システム研究所では異なった遠隔地にいる、多くの人々が一堂に会した面談の感覚で会議を行う臨場感通信会議を提案し、これの実現に必要な要素技術の研究を進めています[1]
 この臨場感通信会議には、映像をあたかも実世界のごとく3次元世界の情景として自然に認識できる臨場感表示技術が必須となります。ここで紹介するのは、立体視用の特殊眼鏡をかけないで、見たい方向から観察できる立体表示装置です。

2どうして立体的に見えるの?
 人には左右の眼の間にわずかな間隔があるため、右眼と左眼で見た情景は微妙にずれていることになります(視差)。このずれにより、脳で奥行きが知覚されています。したがって、右眼には右眼の位置から見た映像を、左眼には左眼の位置から見た映像をそれぞれ同時に提示すれば立体感が得られることになります。これを実現する方法として、従来は、画像分離のため液晶シャッタ眼鏡や偏光眼鏡が用いられてきました。
 しかし、このような特殊な眼鏡を用いた場合は、眼鏡をかける不快感・不自然感や、画像が暗くなり、また会議参加者の表情がわからなくなること等の問題がありました。

3眼鏡を用いない立体表示
 このような問題を解消するため、レンティキュラシートを用いる方式をとりあげました。
 この方式の原理図を図1に示します。レンティキュラシートは多数のかまぼこ状のレンズから構成されていて、、個々のレンズに対して右画素列(右眼用画像の一列)と左画素列(左眼用画像の一列)のペアーが映写されます。各画素はレンズを通して拡大投影され、右画素は右眼に左画素は左眼に入射します。他のレンズからも同様に拡大投影されて、空間上に右の映像しか見えない領域、左の映像しか見えない領域ができます。この領域に両眼を置くと、特殊な眼鏡をかけずに立体映像を見ることができます。

4見たいところから立体的に見るための技術
 観察者が移動すると、その人の動きに合わせて右眼・左眼映像領域を移動させればいつでも立体映像を観察することができます。そのために以下に示す技術を開発しました。そのシステム構成を図2に示します[2]
1)観察者の位置検出
 磁気センサー等の機器を装着しないで位置検出を行う試みをしています。照明の影響を受けないようにするために、赤外線を用いて眼の網膜反射像を撮影します。これを2台の席大山カメラでステレオ計測を行い、計算機で即時に両眼位置を計算します。(なお現在は、安定にかつ精度を良くするために、赤外線反射シールを顎に付けて観察者の位置を求めています[3]
2)見たいところからの映像
 観察者が移動した位置を上記の手段で求めた後、その位置から見えるはずの映像をCGで創り出します。横に動けば横からの、近づけば近づいたときの映像を俊治に映し出します。
3)右眼・左眼映像領域の移動
 観察者の左右方向の移動に対しては、投影器の投影レンズを左右に移動させて、レンティキュラシートの背面に投影されている投影画像を左右に移動させます。実験システムでは投影レンズが1mm動くと、観察領域は約1m動くので、投影レンズの微少な動きで右眼・左眼映像領域の左右の制御ができます。
 観察者の奥行き方向の移動に対しては、レンティキュラシート背面の投影画像を拡大または縮小させます。この光学的拡大縮小を歪みなく行うために、ミラーの移動により投影距離を変化させる工夫を行っています。2%の拡大率の変化で、観察者の1.5m-3mの移動に対応します。

5立体表示装置

 写真1は立体CG画像の表示例です。スクリーンサイズは対角75インチ(約1.1m×1.5m)で、等身大の人物を2〜3名映すことができます。

6おわりに
 ATR通信システム研究所で研究を行っている、立体表示装置について紹介しました。現在のシステムでは、観察者が1名ですが、複数の人が同じスクリーンを見ているにもかかわらず、異なった立体映像を見ることのできる装置についても研究中です。今後も、臨場感通信会議を実現するための立体表示の研究を進めていく予定です。

参考文献


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