人間主体の通信システムの実現を目指して
−知的通信システムの基礎研究−


(株)ATR通信システム研究所代表取締役社長 寺島 信義



通信システム研究所では標記目的のため、つぎの4つのテーマについて基礎研究を行っています。
(1)ソフトウェアの自動作成通信分野の非専門家でも、通信サービスを実現できる通信ソフトウェアの自動化をねらいとして、機械化の困難なソフトウェア作成の上流工程に注目して仕様記述、健勝、合成等の研究を進めています。具体的には通信サービスの設計者の曖昧な要求を獲得して、それから仕様を作成すること、作成された新しい仕様が、既に通信システムに存在する仕様と矛盾がないかどうかチェック(検証)すること、矛盾がないことがわかると、それを機械が処理できる形に合成すること等であります。
 さらに、このような設計過程で得られる情報を関連付けて保存しておき、仕様の変更要求が発生したら、蓄積された情報をたどることによって変更箇所を自動的に抽出し、保守・改造作業に役立てる研究も進めています。仕様記述・検証・合成・再利用技術等について着実に成果が得られてきております。
 われわれが進めている要求獲得等の研究は人間の曖昧な要求をどのように適確に獲得するかという命題であり、非常に困難なテーマであります。われわれはこの命題にチャレンジし、研究を進めております。さらに、われわれの研究が契機となり「通信ソフトウェアの新しい方法論」を研究する通信ソフトウェア工学研究会が電子情報通信学会に平成5年1月に発足し、この種の問題を研究・討論する場ができたことは、特筆すべきことと申せましょう。
(2)臨場感通信会議への知能処理応用
(3)臨場感通信会議のための画像処理等の信号処理
通信システムに知識ベースや画像情報を積極的に取り入れることにより、臨場感のある通信システムを実現するとともに、操作性に優れたヒューマンインターフェース等の実現を目指す研究を進めております。具体的にはこの研究のキャリング・ビークルとして臨場感通信会議システムという新概念を世の中に先駆けて提案し、これに的を絞って効率的に研究を進めてきました。
 これを実現するための要素技術として、3次元表示、人物像処理、高度協調作業環境、3次元画像データベース等を取り上げ研究を進めております。これまでに得られた主な成果としては、眼鏡なし視点追従形立体視技術、人物像の認識と再構成技術、協調作業のための手振り認識の技術、3次元画像の形状記述技術等であります。われわれは、これまで世の中で別々に進められてきたこれらの技術を総合的に研究することにより、これまでにない新しい知見も得られてきております。
 昨年の暮れ、臨場感通信会議システムの国際ワークショップを企画して世界から斯界の第一人者を招聘し、研究の発表と討論を行いましたが、この中でもわれわれの研究は高い評価をいただいております。
(4)セキュリティ
暗号等のセキュリティ基本技術および、通信システムに対する不法アクセス、情報漏洩等に対するセキュリティ評価技術の研究を行ってきました。前者についても一定の成果が得られたのをうけ、各種システムにおいて不法な情報漏洩の可能性を事前に検出するセキュリティ評価モデルを考案し、システムやデータベースを対象にその有効性を検証したところです。さらに評価技術の確立に向けて研究を進めてまいります。
 このプロジェクトは10年プロジェクトであり8年が経過しました。これからは、これまでに進めてきた要素技術の研究をさらに深化させるとともに、プロトタイプを構築して、これまでに得られた要素技術の評価を進め、技術の確立に向け研究を行ってまいります。さらに、研究の過程でいろいろと新しい研究の芽も出てきており、今後の研究の展開に役立ててまいります。
 研究所運営上は、研究者に常に研究の目標を明示して研究者がその目標二向かって研究を進めるようにすること、幅広く研究者を招聘し、新しい視点で研究を進め、相互啓発により新しい知見に結び付けること、特許など知的所有権の確保を進めること、研究者に成果の発表の場を積極的に与えること等を心掛けているところであります。
 お蔭様をもちまして、研究も目標に向って着実に進展しています。関係各位におかれましては一層のご支援、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。