新プロジェクト発足に際して


株式会社国際電気通信基礎技術研究所 代表取締役副社長 吉田 匡雄



 21世紀の高度情報社会の基盤をなす電気通信技術の基礎的独創的研究の推進を目指して、関西の地に産声をあげたATRも、既に6才の齢を数えるに至っております。この間、関係の皆様方の絶大なご理解ご支援をいただき、研究の方も順調に進展して参りました。ここに改めて厚くお礼申し上げる次第であります。
 ATRには、皆様既にご承知のように、「基盤技術研究促進センター」出資対象として4つの研究開発会社を持っておりますが、上記センターの規則により、自動翻訳電話研究所・視聴覚機構研究所は7年間のプロジェクト、通信システム研究所・光電波通信研究所は10年間のプロジェクトとなっており、7年間のプロジェクト2社は余すところ後1年となりました。21世紀に向けて基礎基盤研究を続けるATRにとって、研究の継続実施を図っていくことは必要不可欠であり、今回新しく9年間のプロジェクトとして、ヒューマンコミュニケーションメカニズムの研究(ATR人間情報通信研究所)を上記センターの出資プロジェクトとして発足させました。新プロジェクトが発足出来ましたのも、関係各界の皆様方の深いご理解とご支援のお陰と厚くお礼申し上げます。ATRの研究継続のためには、今後とも逐次新しいプロジェクトを発足させていく方針でありますので、引き続き関係各位のご理解ご支援を賜ります様重ねてお願い申し上げます。
 「世界都市 関西」の一翼を担う関西文化学術研究都市の中核として、内外に開かれた研究所を目指しているATRは、情報の発信源としても大いに努力しているところであります。国内外の学界での論文発表は年間600件を超えており、うち審査をパスした国際学会での発表件数は年間160件で、研究員一人当たり約1件と日本の平均一人当たり0.1〜0.2件の数倍ものハイレベルで発信しております。このように、発信に努めました結果外部から多くの関心が寄せられ、客員研究員は40名程度が在籍し、うち海外からは20数名に達しております。この6年間に、海外からの客員研究員で復帰した人々は約50名であり、現在の20数名と合わせて約80名の多きに及んでおります。
 交通手段や情報通信技術の発達によって、世の中はグローバリズムの時代を迎えており、研究のターゲットも10年20年先を見据えて、人類の真の幸福を目指すものが要請されております。そのためには、従来よりスケールも大きく異なった分野の融合が欠かせないものとなってきております。異分野の融合となると、価値観や思考方法も異なるであろう複数の人々との共同研究が必要であり、今まで必要とされた研究者の素質に更に別のもうひとつの能力を付け加えることが要求されるのではないかと思われます。お互いの優れた点を認め合い、それにもとづく自分の役割分担を受け入れる協調性と謙虚さを持ち合わせるといったことが必要となってくると思われます。企業内研究での上下の関係ではなく、こうした横のつながりで研究をするということに対して、ATRでの出向研究員、内外からの客員研究員から成り立つ研究環境は、1企業内では成立し難いものであり、異分野融合に適していると言えましょう。こうした環境が今までも相当の効果を発揮してきておりますが、今後、時代の要請に沿って、益々効果を発揮していくものと大いに期待しているところであります。