光宇宙通信に想う


ATR光電波通信研究所 代表取締役社長 古濱 洋治



 本年8月25日、12年前に打ち上げられた探査機ボイジャー2号が、太陽系最外殻に位置する海王星と会合し、海王星の衛星やリングの存在など数々の新しい知識をもたらしたことは記憶に新しい。これらの情報は、44億キロメートルの彼方から送られてきたものであり、人類が経験した最も遠方からの通信ということができる。ボイジャー2号は、地上との交信を保ちつつ、太陽系を離れて宇宙空間を飛行しており、遠距離通信の記録を時々刻々更新している。
 近年の無線通信技術は、非常に機能の高い効率的なものになってきているもの、海王星のような遠距離にある深宇宙探査機との交信では、電波の受信信号強度が極端に弱くなるため、直径3.7mの搭載アンテナと64mの地上局アンテナを使って、電話回線1/3チャンネル相当の通信容量を確保している。通信システムの大容量化、搭載機器の軽量化あるいは、電力の省力化がここでは大きな課題である。このため光を使った宇宙通信技術が検討されており、今世紀末には実験システムが打ち上げられる予定である。光宇宙通信システムの利点は小型軽量の装置により、省エネルギー型の大容量通信システムが出来ることである。
 ATRでは、増大する通信需要と通信形態の多様化に対処するため、通信技術の基礎研究を行っている。将来、衛星軌道上の無重力状態を利用して新素材の開発や軌道上に大型構造物の建設を行う際、宇宙通信技術は共通的な基盤技術すなわち技術のインフラストラクャーとなり、光衛星間通信技術もその一端を担うこととなる。この技術は、開発要素が多いため早くから研究に取り組む必要があり、我が国においても研究が進められている。ATR光電波通信研究所は、光衛星間通信技術の中心的な技術である、光通信方式と光ビームの指向技術の研究を行っている。
 星の光を通じて、光の速達性はよく知られている。今や人類は、光宇宙通信技術を自家薬籠中の物としようとしている。ボイジャー2号の成功を祝うと共に、光宇宙通信時代の到来を確信するものである。