異言語間のコミュニケーション


ATR自動翻訳電話研究所 代表取締役社長 榑松  明



 航空機の発達や、電話をはじめとする通信技術の進歩によって、世界的に人々の交流が盛んになると、言語の異なる人とコミュニケーションする機会が多くなる。人間は、離れた所にいて互いにコミュニケーションをする場合、言語は欠かせないものである。
 自動翻訳電話のメリットとして大事な点は、言語の違いを意識せずに、母国語で言語を操作できるということである。日本人が外国人に向かって、ゆっくりとていねいに日本語を話し、これを自動翻訳するようにできればすばらしい。
 話し手と聞き手が、共通の言語で、しかも共通の知識を持っている場合には、円滑にコミュニケーションができる。ある程度、相手の意図が予測できるので、すべてを完全に認識できなくても、内容が理解できる。極端な場合、両者の間に約束されたコード(符号)が存在して、それに完全に従ってメッセージを作成して送り出し、受け取って解読する方法をとれば高能率にしかも誤解なくコミュニケーションされる。しかし、これは、ある範囲の人々の間の通信に限定される。
 言語が異なるということは、究極的には文化が異なることになるため、相手の言語に対する知識と能力がないとコミュニケーションがうまくいかない。特に、電話での会話となると、あまり間をおかずに返答をしないと相手が気分を害するかもしれないという圧迫感で、考えがまとまる前に言葉が口から出てしまう。すると、自分の言いたいことと違うことを言ってしまったり、あるいは、語彙や言い方の貧弱さのために、違うように受け取られてしまうことがある。
 日本人が外国人とよいコミュニケーションをするには、発音と語彙をふくむ文法だけでは不十分で、文法外の色々な行動ルールに従って、言葉を発声しないといけないといわれている。外国に生活した経験でもないと、これを会得するのはむずかしい。一方、母国語を発声する場合には、言葉の運用をいかにするかは、慣れていて容易である。
 自動翻訳電話の研究は、自然言語処理というむずかしい難関を突破する必要があるが、国内海外の研究協力のもとに、基礎研究を充実させ、段階的に技術を進歩させていくことが肝要であろう。