これからの光電波通信
−宇宙から個人までのネットワーク化−





ATR光電波通信研究所 社長 古濱 洋治



 当研究所は、将来無線通信が最も重要な役割を果たす移動通信、宇宙通信の分野に重点をおき、これらに必要となる基礎技術を開発することをめざしています。具体的には、将来の宇宙通信において重要となる光を用いた衛星間通信の基礎技術、いつでもどこでもだれとでも通話が可能となるような新しい移動通信システムのための基礎技術、および小さくて軽くしかも様々な働きを持った通信デバイスを可能とする新しい通信用素子の研究であります。これらの研究を、互いに関連をもたせながら、それぞれ無線通信第一研究室、無線通信第二研究室、および通信デバイス研究室が担当しています。以下これらの研究動向についてご紹介します。

(1)光衛星間通信の基礎技術の研究
 人工衛星を用いた通信技術と光ファイバ通信技術の導入によって、地球上の2地点の間の通信は容易に行われるようになり、技術的に見れば、世界中のどこの地域とも対話が可能となっています。宇宙通信技術は、このような地上の2地点を結びつけるのみならず、衛星と衛星とを結びつける衛星間通信(図1)の分野において、新しい進展をみせています。特に、電波の代わりに光を用いる光衛星間通信技術は、将来幅広い用途が約束されており、その動向が注目を浴びています。宇宙通信は、無重力の宇宙空間を利用した新しい素材の研究、スペース・プラットフォーム(大型宇宙構造物)におけるいろいろな実験、あるいは将来のスペースコロニー(人工惑星の一種)での人類の生活など、将来の地球大気圏外における人類の諸活動を支えるインフラストラクチャー(下部構造)として重要な意味もっています。光衛星間通信技術はその中心的技術であり、当研究所ではこの技術の内、我が国のポテンシャルを考慮に入れて、光通信技術の研究および高速移動する飛翔体間における追尾技術の研究を進めています。

(2)移動通信のための基礎技術の研究
 いつでもどこでも誰とでも通話できる小型・軽量の通信システムを安価に提供することは、この分野の研究者・技術者の積年の夢となっています。数年前からNTTによって自動車電話のサービスが始められ、随分便利になっていますが、必ずしも安価ではなく、誰もが、どこでも使えるという訳にはまいりません。それには先ず、有限な資源である電波の使用効率を飛躍的に高めて、誰でもがいつでも電波を使えるような技術を用意する必要があります。通信を行う場所は人口の密集している都市内であることが多く、テレビ映像でお馴染みのゴーストと同じ原因によって電波の干渉が生じ、また車などの走行によって信号に極端なフェージング(変動)が生じて、しばしば通信不能に落ち入ります。このような電波干渉・フェージングの除去技術の確立は、どこでも通信できる技術のための中心課題であります。このため、当所では未だ実用化の進んでいない新しい周波数帯において干渉に強いアクティブアレーアンテナの技術、フェージングに対抗するためのディジタル信号処理技術、回路の小型・高機能化のための集積回路の研究を進めています。(図2

(3)通信デバイスの研究
 トランジスターの発明は電気通信技術に革命をもたらし、またLSI(大規模集積回路)、VLSI(超大規模集積回路)の出現は社会を変え高度情報化社会を支えています。これらはシリコン半導体技術の進歩によるところが大きく、素子材料技術の影響がいかに大きいかがわかります。近年、シリコンよりはるかに高性能なガリウムひ素を中心とした化合物半導体を用いた超高速素子、光素子の研究が進められ、これらによる光通信が実現しました。これらの素子の高機能化をめざし、自然界にない新材料、新素子の研究が急速な展開を見せています。最近では原子1ヶ1ヶの並び方を制御することまで可能となりつつあり、技術の進歩は極限をめざして進んでいます。当所ではこれらの新しい素子の構造と働きの電子計算機による解析、それに基づいた高機能通信素子の作成、および画像など多次元情報を高速で処理する光情報処理素子の基礎研究を進めると共に、将来の通信技術の基礎となる理論研究を進めています(図3)。