TR-WEL-0007 :2005.3.30

樋口啓介,青野智之,太郎丸真

エスパアンテナを用いた秘密鍵共有方式

Abstract:近年,無線通信の利便性の高さから,ブロードバンド・アクセスの手段として無線LAN等が急速に普及している.しかし,無線通信は,電波の傍受により盗聴される危険性があるため,情報セキュリティ面での脆弱性が問題となっている. 一般に,無線通信でのデータの暗号化には,処理が高速で大量データの扱いに有利な秘密鍵暗号方式が用いられる場合が多い.しかし,この方式には,2つの問題点がある.1つは秘密鍵の共有のために通信によって相手方に秘密鍵を配送する場合,配送した鍵が傍受される危険性があるという鍵配送における問題点である.もう1つは,通信相手毎に異なる秘密鍵が必要となり,複数鍵を管理しなければならないという鍵管理における問題点である[1][2]. これらの問題を解決するために,電波伝搬路の雑音や変動等の制御困難なランダム現象を用いた秘密鍵共有方式が研究されている[3]-[11].このうち伝搬路の可逆性とフェージングによる不規則変動を利用し,秘密鍵を共有する方法[5]-[11]は,伝搬路状況に応じて使い捨ての鍵を生成・利用することが可能なため,鍵配送・鍵管理の問題を解決できる優れた方式である.しかし,フェージング現象は一般に端末の移動により発生するため,一般家庭やオフィス内で無線LANを利用する場合のような,端末が半固定位置で伝搬路の変化が起きにくい場合には,ある程度の強度を持つ鍵を得るために時間が掛かり,短時間で鍵を作成した場合には盗聴者に推定されやすい秘密鍵になるという問題点がある. 端末が固定位置の場合においても短時間で秘匿性の高い秘密鍵を生成する手段として,文献[11]ではMIMOシステムにおいける手法も提案されているが,ATRでは可変指向性アンテナであるエスパアンテナ[12][13]を用いて,人為的に受信信号強度を変化させ,その変動をもとに秘密鍵の共有を実現する方法を提案し,検討及び装置化を行っている[14]-[20].本方式は,現在無線LANに使用されているWEP(Wired Equivalent Privacy)やWPA(Wi-Fi Protected Access)等のセキュリティ方式と競合するものではなく,本方式を既存のセキュリティ方式に組み合わせることで,より強固なセキュリティを手軽に使用できるようになる.