TR-O-0119 :1996.3.15

田中豊久

DBFセルフビームステアリングアレーアンテナ信号処理部の開発(設計データ付き)

Abstract:昨今、世の中は移動通信ばやりである。電車の中、会議中、レストランで携帯端末の呼出音が鳴る。浸透 の速度は目覚ましいものがある。人々は一度移動通信の便利さに気が付けばもう、元に戻れないかもしれ ない。この勢いで市場が需要が伸びれば将来的に周波数が欠乏状態になることは簡単に予測できる。この 問題を解決するためには、新たな周波数の開拓、周波数の繰り返し利用、多重化技術の利用による回線の 確保などが検討、研究されている。また、将来的には音声通信にとどまらず、画像通信、B-ISDNに代表さ れる広帯域データ通信などの要求が高まってくるであろう。 一方、電子機器分野では、20年程度前からディジタル化の波が押し寄せて来ている。通信も例外ではなく、 既にディジタル通信はサービスが開始されている。今後もディジタル化された通信は益々発展して行くも のと予想される。 ATRでは設立当時から将来の高機能移動通信用アンテナとして、ディジタル信号処理を利用したDigital Beam Forming Antennaを提案、研究して来た。このアンテナはアンテナ部に円環パッチアンテナとリング アンテナを2層構造にして組み合わせたセルフダイプレクシングアンテナを用い、さらにそれをアクティブ アレーアンテナ構成にしている。アナログ部も集積化が期待できるMMICによって構成も可能である。最 後に複雑な信号処理を引き受けるディジタル部に並列処理ディジタル信号処理装置(DSP)で構成される、各 種の技術の組み合わさった統合化アンテナである。当初ディジタル信号処理部は汎用DSPチップの搭載し たボードを複数枚使用して構築されたDSPシステムを用いて研究が行われていた。汎用ボードを組み合わ せたシステムでは、複雑な並列処理と相互のデータのやり取りを制御する事や動作速度の限界があり、ま た汎用システムであるがゆえに筐体も非常に大型にならざるを得なかった。ここで、より小型化、複雑な 処理の実現を目指したDSP部のASIC化に白羽の矢が立った。最終的な目標はすべてのDBFアンテナの処理 が1チップに集積化されたASICの完成であるが、1チップASICは作成にコストと汎用性を犠牲にする事を要 求する。そこで設計がASICと同じ手法が用いられ、設計自体もASICに転用可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)を用いたDSPを構築する事になった。FPGAを用いる利点として、ユーザサイトで設計開発が可 能な事、ASIC化へのハード規模などの情報が得られる事が挙げられる。逆に、欠点としてはそのプログラ ミングが可能なアーキテクチャにより動作速度がASICと比べて劣っている。しかしながら実験システムで はデータレートを低く抑える事により、その欠点をカバーすることができる。このようなATRでの歴史的 背景のなか、FPGAを用いたDSPボードにより、DBFアンテナの実現性を検証する事を目的としたDSP開発 が行われた。本研究レポートでは学術論文等では、取り扱わなかった、設計のノウハウを含めてDBFアン テナが作れるようにまた、既存のシステムが理解できるように記述した。DBF技術を用いたFFTマルチビー ム生成部、ビームセレクタ部、位相補正部までを参考文献[1-1]に、CMA(Constant modulus Algorithm)を指 導原理としたアダプティブプロセッサについてを参考文献[1-2に]、ビームスペースでアレーアンテナで最 大比合成を行なうDBFセルフビームステアリング用プロセッサについては本テクニカルレポートで述べる。