TR-O-0112 :1996.3.8

土居義晴

アダプティブアレーアンテナと 最ゆう系列推定の結合 - 所望波と遅延波の分離再合成アルゴリズム -

Abstract:次世代のディジタル移動通信システムでは、2Mbps程度の通信速度の実現を目指している。 屋外の電波伝搬環境で、この程度の通信速度で電波を送信すると、送信される信号のシンボル長に対して、1シンボル以上の遅延波が発生する。1シンボル以上の遅延波は、符号間干渉(Inter Symbol Interference:ISI)として受信信号の波形歪みを起こし、伝送品質を著しく劣化させる。TDMAシステムにおける遅延波対策としては、ISIを等化する適応等化器[1]と、ISIを除去するアダプティブアレーアンテナ[2],[3]が提案されている。 一方伝送速度の高速化以外にも、ディジタル移動通信システムの加入者数の急激な増加に対応するため、通信システムの大容量化の必要が生じている。現在のセルラーシステムは、互いに干渉しないように、同一のチャネルを使用する基地局を離して配置している。このようなシステムに対して、アダプティブアレーアンテナを各基地局に設置し、同一チャネル干渉(Co-Channel Interference: CCI)を除去することにより、同一チャネルを使用する基地局を近接させ、同一チャネルの場所的な利用効率を向上させる方法[4]と、同じセル内で2つの移動機に同一チャネルを使用させ、干渉除去能力を持つ等化器[5],[6]を用いて、CCIを除去することにより、周波数利用効率を2倍にする方法[7],[8]が提案されている。 以上のように、ディジタル移動通信の高速化と大容量化を同時に実現する技術としては、干渉除去能力を持った等化器と、アダプティブアレーアンテナの2方式が現在のところ提案されている。従来のアダプティブアレーアンテナは優れた干渉除去能力がある一方で、ISIをも干渉波として除去してしまうため、等化器では得られるパスダイバーシチ利得が得られない。そこで、本稿では、パスダイバーシチ利得が得られるアダプティブアレーアンテナシステムを提案し、準静的なレイリーフェージング伝搬路における、平均BER特性を計算機シミュレーションによって明らかにした。その結果、提案システムでは、CCIが除去されること、平均C/Iが10dB以上では、十分なパスダイバーシチ効果が得られることが分かった。