TR-O-0082 :1995.3.31

高橋寿征

DBFアンテナにおける A/D変換器の有効分解能に関する検討

Abstract:ディジタルビームフォーミング(Digital Beamforming,以下DBF)アンテナは、ディジタル信号処理技術を適用したアレーアンテナの一形態であり[1]、従来のアナログ型のフェーズドアレーアンテナに比べ、振幅・位相を容易に、高速、高精度で制御できる特長を有している。そのため、アクティブ回路を含めたパターン補正や衛星追尾、アダプティブな干渉波抑圧などの機能が必要とされる移動体衛星通信用アンテナとして注目されている[2],[3]。 従来のようにアナログ信号のままでビーム形成を行うアレーアンテナでは振幅の制御が難しく、そのハードウエアの構成も複雑になりがちであった。しかし、DBFアンテナは、振幅の制御も容易に行うことが可能であり、マルチビーム形成やアダプティブビーム形成などに対して有効と考えられる。 DBFアンテナは、元来、軍用レーダの分野で発展してきた技術の1つであり、民間の通信分野への転用には種々の技術課題を克服する必要があった。しかし、汎用ディジタルシグナルプロセッサ(Digital Signal Processor,以下DSP)を用いた通信用DBF信号処理装置の試作[4],[5]によって通信への利用の可能性が示され、更に最近では、FPGA (Field Programmable Gate Array)によるASIC(Application Specific Integrated Circuit)化[6]も実現され、自動車等への搭載が可能でアダプティブ機能をも備えたDBFアンテナが実現されるに至っている[7]。この先更なる小型化・軽量化が実現されれば、DBFアンテナの携帯端末機への適用などパーソナル通信の領域はもとより、基地局や衛星放送受信システムヘの応用など、幅広い分野への展開が期待できる。 アンテナシステムの小型・軽量化を実現するためには、アンテナ素子のみならず各種回路部の小型化が必要であり、ディジタル信号処理部のASIC化等は重要な要素技術と考えられる。しかし、多くの回路を単に小さな領域に詰め込むだけではなく、回路規模の縮小も必要であり、中でもアンテナ素子数分だけ必要とされるA/D変換器については、できる限り回路を簡略化し、回路規模を縮小することが望ましい。将来的には動画像等の高速大容量通信を考慮した広帯域移動体通信への展開も考えられ、Ka帯等のより高い周波数帯への移行が予想される。 このような高い周波数帯ではアレーアンテナの素子数は100以上にも及ぶことから、回路規模の縮小は必要不可欠といえる。 しかしながら、不用意な回路の簡略化はA/D変換器の分解能を必要以上に低下させることにもなりかねず、所望の性能を実現できなくなる恐れもある。そこで、SNR(信号対雑音電力比)や指向性利得の変化に着目し、A/D変換器の有効分解能について実験的検討を行った。また、移動体通信では、周波数有効利用の観点からも効果的な干渉波の抑圧が必要とされており、アダプティブビームフォーミング機能が注目されている。そのため、アダプティブなビーム形成を行うに十分な分解能の確保も必要である。そこで、ナルビーム形成に必要な分解能という観点で実験的検討を行い、DBFアンテナのA/D変換器に要求される有効分解能の一指標を示す。