TR-O-0056 :1993.2.19. ( Internal Use )

上綱秀樹

MMIC非線形デバイス回路の研究

Abstract:ATRでは、将来の移動通信用超小型端末を実現するため、モノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)の研究を行ってきた[6-1-1]。ところで、これらの技術を適用して例えば腕時計サイズの超小型移動端末を実現した場合、その送信電力の低下を補い、かつ周波数の有効利用を図るため、無線電波の送受を行う無線基地局を数100メータ以下おきに配置するマイクロセル・ピコセルゾーン方式が有望視されている[6-1-2]。また、これらの無線基地局は莫大な数が必要と なるため、同軸ケープルや無線による給電に比べ、低損失、広帯域でかつ電磁干渉が少ない特長 を有する光ファイバによる給電系が注目されている[6-1-2]。さらに、移動通信への需要の増大に 応えると同時に、映像などの広帯域な信号の伝送も可能にするためには、現在の移動通信で実用 に供されているUHF帯に比べて、本質的に広帯域であるミリ波等の超高周波無線信号を用いる ことが必要である[6-1-2]。 ハードウェアの観点からこれらのシステムを実現する上でのキーテクノロジーは、無線基地局においてミリ波の送受をサポートし得る装置(光送受信回路+高周波回路)を如何に小型・低コストで実現できるか?つまりこれらのコンポーネントのモノリシック集積化という点になる。 ところで、これらの要素技術のうち、光デバイス(LD、PD等)においては、研究段階で はミリ波帯まで動作するものが実現されつつあるが、市販レベルのデバイスの動作帯域は、現状 では10GHz程度以下である。一方、電子デバイスは、ミリ波帯までの動作を得ることは比較的容易であり、またMMIC技術の進展により各種機能回路がチップレベルで実現されている。 したがって、現在研究レベルにある超高速光デバイスを利用すれば、MMICとのハイブリッド構成により上記目的のコンポーネントは実現できる。 ここで光受信器に着目すると、光検出器を除く必要な回路は電子回路であるので、光受信器の集積化をターゲットとしたMMICコンパチブルなデバイスの光検出機能の研究が精力的に行われている。また、これらのデバイスは、非線形特性を有しており光検出機能と周波数変換機能 を同時に合わせ持つこともできる(光マイクロ波ミクサ)。光マイクロ波ミクサを用いれば単に 装置構成を簡単にできるだけでなく、アップコンバータとして用いることにより、光ファイバリンクを構成する光デバイスの動作帯域に関わらず光受信器において超高周波無線信号を得ること ができる。つまり市販レベルの光デバイス(発光素子)とMMICプロセスを用いた光/マイクロ波周波数変換器により小型・低コストな光ファイバリンク、光受信器を構成できる。 本研究では、MMICプロセスを用いたモノリシック高機能光マイクロ波ミクサの実現を最終ターゲットとして、光/マイクロ波デバイスの光・マイクロ波周波数混合特性の評価、および これらのデバイスをハイブリッド回路等のマイクロ波機能回路と組み合わせ、不用なスプリアス をフィルタなしに抑圧できる光ファイバリンク構成法の検討を進めた。 またMMICの分野では、これまで検討されていなかった数GHz帯の受動回路やMMIC遅延線の実現を目指した超小型MMIC遅波線路の提案、および従来のLUFETでは実現不可能な同相/逆相以外の信号分配機能を持つアクティブ信号分配回路の構成法を提案し、試作によりこれらの回路の優れた特性を実証した。