TR-O-0010 :1989.8.1

森裕平

有機高分子の非線形光学効果に関する調査

Abstract:近年の光通信、光デバイスの発達に伴い、大きな非線形光学効果を起こす材料への要望も高まっている。光の波長変換素子など非線形素子は、これまで、無機物のものが使われてきた。しかし有機物には独自の特徴があり、期待は大きい。有機物の特徴の1つは、分子の骨格や置換基が多種多様にできることである。もう1つの特徴は、分子上に広がったπ電子がつくれることである。広がったπ電子は、非線形光学定数が大きく、電子的応答が主であるため、応答速度が早い。有機高分子の非線形光学効果に関しては、ここ2~3年、主鎖骨格そのものが共役系で長いπ電子をもつものへ関心が集まり、これらの3次の効果を測定解析することが急速にふえてきた。このReportでは、どういう有機高分子が、どういうときに、3次の非線形効果がおおきくな るかについて、しくみがわかっていった経過を概説する。高分子のなかで、比較的詳しく調べられたものが、ボリアセチレンとポリジアセチレンである。これらは3次の非線形効果が大きい事実がわかったのみでなく、そのしくみが、最近の短時問分解分光法の技術を通して調べられ、その結果が、各種共鳴現象、電子相関や電子格子相互作用など、他の物性研究の分野でも興味深い話題と関連させながら議論された。これ以外の有機高分子については、3次の非線形効果やその応答時間についてのデーターが蓄積されつつある段階である。また、非線形光学効果の測定は、高分子の相転位の観察や、酸化還元のモニターなどにも役に立つことがあり、分子の非線形光学効果の発展性は多面的である。