TR-M-0049 :1999.9.24

二宮知子, 西村竜一

マラソンシステムにおける音響効果

- 走行速度に応じた速度で後方へ移動する声援 -

Abstract:バーチャルリアリティ(仮想現実感)とは、人間の知覚系に人工の媒体(メディア)を通じて環境情報を伝達し、被験者に対し物体や現象の存在を仮想的に知覚させる技術である。 人間の知覚には視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚などがあるが、環境情報の大半を視覚から得ている。そのため現在のバーチャルリアリティは視覚情報により仮想環境を構築するものが多い。近年バーチャルリアリティが注目されるようになったのは三次元画像やコンピュータグラフィックスの技術、画像処理能力の飛躍的な向上によりインタラクティブな画像生成が可能となったからである。しかし、現状の技術では、人が満足できるような臨場感は実現できていない。なぜならば、実像と機器に投影された映像とは、明らかに識別できるからである。その他の臨場感に欠ける理由としては、触覚・力覚や物理法則による拘束の欠如、自然界とのインタラクション、聴覚の欠如が挙げられる。 聴覚は視覚に次いで多くの環境情報を得るため、臨場感を強化するためには視覚に加え聴覚の刺激を与えることが効果的であると考えられる。 聴覚を導入する利点としては次のようなことがある。視覚はその有効範囲を視線の方向に限られているが、聴覚は全方位を知覚することができる。また、音は「もの」に状態変化、すなわち運動が生じたときに発生する。よって仮想環境において何らかの作業・動作を行ったとき、音が存在するほうが自然である。さらに映像の「もの」の移動と共に音の移動があれば、印象も強く現実感も増す。付け加えて、オーディオ技術の向上により、現在では生の音と録音された音との差がほとんど区別できなくなり、より自然に近い音が再現可能になったことも挙げられる。 一方、視覚以外の感覚系をも含めた仮想環境を実現し、それら感覚系からの刺激を他の人と共有することで、人と人とのコミュニケーションを支援するシステムの構築が行われている。その一実現例として「マラソンシステム」がある。このシステムは、実在のマラソン選手が実際にマラソンを走ったときの感覚と同じ感覚を、ユーザが仮想空間内で追体験することにより、そのマラソン選手がその時に感じていた喜びや辛さといった気持ちを、ユーザにも感じてもらうこと目指したものである。 この「マラソンシステム」においては、走者の息使いや足音といったものから、風きり音・並走している車やバイクの音・沿道の声援まで、様々な聴覚刺激が必要である。実際には実験室内に構築される仮想空間を、臨場感溢れるものにするためには、これらの中でも特に沿道の声援を付与することが効果的だと考えられる。本実習では、実際には定位置で走行運動をしているユーザに対し、走行速度に応じた速度で前方から後方へ流れている聴覚刺激(沿道の声援)を提供する仕組みを構築することを目的とした。