TR-M-0040 :1998.9.25

立蔵洋介, 西村竜一

一次反射音付加による仮想空間の広さの制御

Abstract:実空間の状態認知において、聴覚は視覚に次いで多くの情報量を与える感覚である。特に後方など、人間の視野外の状況を認知するためには、音のもつ情報量は膨大であり、その寄与は大きい。 一方、情報通信技術の発達に伴い、マルチメディア時代に即した新しいコミュニケーションの手法の確立が急務となっている。その一翼として、目的に応じた仮想現実感の表現が期待されているが、これを実現する手段としては映像を三次元的に表示するのみならず、音を三次元的に表現する必要がある。これは前述したとおり、例えば前方の距離感など、視野内の状況を補足する情報源にとどまるだけではなく、視野外の状況認知の上でも重要な情報源だからだ。 したがって、旧来の二次元的再生では音源との距離感や方向性などといった情報を十分に提供することができず、新たに任意の音響空間を再現する技術が求められる。 ところで室内の反射音は音に広がりや奥行き感を与えるため、臨場感を出す上で重要な役割を果たしている。人間が室内で聞く音には、音源から直接到達する直接音と、壁や天井、床に反射して到達する反射音とがある。1,2回ほど反射して数分の1秒後に届く初期反射どの方向からどのような時間遅れで届くかによって、人間はその室内の形状や大きさを知覚することができる。 そこで本研究では仮想空間の広さを聴覚だけで再現する方法として、音源から発せられた直接音と、壁などによる一次反射音をも考慮して提示することにより、これを実現する方法を試みた。ここで直接音の音像定位や反射音の到達方向をできるだけ正確に再現するため、直接音と反射音は、両耳間レベル差と両耳間位相差(時間差)に関する情報を内包した頭部伝達関数(HRTF)を原音に畳み込むことによって生成した。