TR-M-0032 :1998.2.25

北原正慈, 野間春生

電気粘性流体を用いた、表面触感覚提示装置の開発

- 実験機のためのシミュレーションと設計 -

Abstract:近年話題となっているバーチャルリアリティ(VR)においては、人間に対して刺激を提示する様々なデバイスが必要とされている。視覚に対してはHead Mounted Display(HMD)を用いた立体視、聴覚に対しては音場制御による音源の移動の表現などがあり、多くの研究がなされ成果を上げている。一方、触感覚に関しては、その刺激が圧迫、滑り、振動、さらには温度や痛み等と多岐にわたることから汎用的なデバイスの開発が難しく、また現在製作されている触感覚提示デバイスは、特定の刺激のみを与えるものが多い。さらに装置も大がかりなものになりがちである[1][4][5][8]。こうした中で、本研究では電界を印加する事により剪断抵抗が変化する電気粘性流体(ER流体:Electrorheological Fluids)[2][10]を用いて触感覚提示デバイスを構成することで、従来のものに比べ広範囲の刺激を与えられ、形状の自由度が高い(たとえば手袋状のものができる可能性がある)ものが製作できる可能性を提案する。 ER流体自体は1940年代にすでに見いだされており、当時も様々な応用が考えられた。 しかし当時のER流体は耐熱性に乏しく、実用化された応用例はなかった。しかし1980年代になりER流体の耐熱性は大幅に向上し、同一電界強度下における剪断抵抗も大きなものが開発された。このER流体に着目し、電界の分布と液圧を制御することにより、触感覚に対する刺激を作り出そうとするのが、ER流体を用いた平面触感覚提示デバイスである。この装置は5面が剛体、1面が弾性膜の容器中にER流体を満たして内部に複数の電極を配置し、液圧と電極電圧を時系列に制御することで弾性膜表面の形状を制御しようとするもので、圧覚、振動覚の両者に対して刺激を与えることを目指す。また弾性膜表面に進行波を発生させることで、「すべり」の感覚を与えることができるのではないかとも考えられている。しかし現時点ではこの提案が実現可能である保証はなく、裏付けのないまま実際の装置を設計するのは現実的ではない。 そこで本研究では、力学モデルを構成して計算機シミュレーションを行い、液圧と印加電圧を制御することにより、弾性膜表面の挙動をどこまで制御することが可能であるか評価することを目標とする。また、結果を評価するための試験機を作るためのパラメータを見積もる。 本報告書の構成を以下に示す。二章ではVR及び触感覚の基本について触れ、触感覚提示デバイスの現状と本研究で提案するデバイスの最終目標について述べる。三章ではER流体の基本的な性質について述べ、ER流体を用いた平面触感覚提示装置の構成、採用した力学モデル、計算機シミュレーションの結果について述べ、考察する。四章では、実験機の製作にあたり必要となる実装面について、簡単に考察を行う。五章は本報告書の結論である。