TR-M-0002 :1996.2.8

安部伸治

共有仮想空間の知的利用のための定性的システム同定法と2レベルオントロジー に関する研究

Abstract:人間寄りの記号的な表現と実世界寄りの記述の間には一般に大きなギャップが存在する. そのために,実世界に存在する対象を記号的に記述したり,またこれとは逆に記号的な表現 を実世界(に近い表現)に反映させることはきわめて難しく,計算機環境を利用した一貫した 自動処理を実現することは困難である場合が多い.共有仮想空間の知的利用とは,計算機環境を利用した仮想空間を人と人あるいは人とマシンが共有し,人と計算機が協調しながら人 間寄りの記号的な表現と実体寄りの記述とのマッピングを行なって,このようなギャップを 埋めてゆくための環境をつくり出すことを指すものとする.

本論文では,そのための基盤技術として2つの提案を行なう.

その第一は,物理的な現象あるいは社会的な現象として実世界で発生することがらを分析 的に解釈し,理解するために必要な人間寄りの記号表現すなわち方程式表現を獲得するため の支援技術である.これは,数理モデル生成技術と捉えられるが,人間が行なうモデル生成で は対象とする現象の背景にある原理・原則に基づく深い考察によって数学的な記述を得るこ とが行なわれる.そこで,このような過程を計算機環境を利用して支援するための基盤技術 として,定性的システム同定法を提案する.本手法は,対象系の挙動を与えることにより挙動 の記述からダイレクトに方程式表現を獲得する手法であり,これにより仮想空間において物 理世界や社会的な現象を再現することが可能となるため,原理・原則的な理解や考察に必要 な極めて有力な材料を与える手法である.本手法は,定性推論をベースとする技術で,対象系の挙動に関する大雑把な記述や不完全な記述を許容しうるという大きな特徴を持った手法で ある.

第二は,人間寄りの言語表現を計算機が理解し仮想的な物理世界の対象表現を得る手法で ある.ここでは,人間の言語表現と補助的な表現手段として用いられる手振りを認識し,人間 が頭の中で思い描いたメンタルイメージをグラフィクスとして可視化する手法を提案する. 一般にメンタルイメージを予め完全に言語表現で記述し尽くすことは困難であり,逐次的に 言語表現を解釈してグラフィクスに反映し,徐々にメンタルイメージに近付けてゆく過程に 計算機環境が介在することが効果的である.本手法では,このようなプロセスを2レベルオ ントロジーと呼ぶ3次元形状に関する概念体系を用いて実現する.