TR-I-0199 :1991.3.8

工藤育男

対話翻訳システムのための文脈処理機構について

Abstract:対話文を翻訳するためには,省略を補完したり,照応を同定する機構が必要になる.この処理機構は,規模の拡張に耐えられること,自然言語処理部とのマッピングを計ること,入力される文脈が乱れた場合にも耐えられることが要求される.この問題を解決するために,結束性(Cohesion)に基づいた文脈解析手法を提案する.まず,省略や照応を分析し,本当に文脈処理の必要な現象と必要のない現象とを区別する.それぞれの現象に対処するために,文脈処理機構と助述表現による省略補完の機構の二段階の機構をつくる.文脈処理機構には,入力文が,文脈上のどの文に対する発話であるのかを言語的知識(結束性に関する知識)により捕らえる.この結束性に関する知識を生成するために,形式的な定義を与え,言語データベースを利用して,多量に生成する.この知識を省略の補完や指示語照応に応用した結果,フォーカスの省略の補完には,オープンテストで66.0%,クローズドテストで76.6%,また,文脈指示の指示語の同定には,62.5%の結果を得た.また,文脈に依存しない省略には,助述表現を利用して補完を行い,95.5%の結果を得た.言語的知識のみを手掛かりとして,どこまで処理が可能なのか(効果および限界点)を示す.