TR-H-0213 :1997.3.31

松井利一

自律的画像観測機構を実現する視覚系の数理的モデル化の研究

Abstract:視覚系と同等、あるいは視覚系以上の性能を発揮する客観的画質評価法やパターン認識装置を開発する為には、組織的かつ自律的に動作する視覚系の機能、特に自律的画像観測機構と知覚機構を数理的にモデル化し、この数理モデルを利用して新しい客観的画質評価法やパターン認識理論を構築することが1つの有効な解決策になり得ることをいくつかの観点から検討してきた。上記の観点から、本研究では、新しい客観的両質評価法やパターン認識理論を開発する為の共通基盤として必要となる視覚系の数理モデルを構築することを主目的とし、次の4点を具体的な目的とした。

  1. 生理光学、および神経生理学的知見を基に、視覚系全体(眼球光学系、網膜、脳)を1つのシステムとして数理的にモデル化する。具体的には、自律的画像観測と視覚系の各種知覚特性の再現を可能とする数理的視覚モデル(知覚モデル)を定式化する。
  2. 構築された視覚モデルを用いて時空間視知覚応答特性を理論的に再現し、実測されている実験結果(主に心理物理学データ)との比較を行うことにより、本視覚モデルの有効性・正当性を検証する。即ち、提示画像の性質や提示条件に依存して適応的に変化する知覚特性が本視覚モデルから理論的に再現可能かどうかを検証する。
  3. 視覚モデルから理論的に得られた視知覚応答特性から、まだ良く分かっていない視覚系の画像処理機構の詳細を明らかにする(予測)。
  4. 視覚モデルを応用した画質評価法の開発や、コンピュータビジョンヘの応用可能性を検討する。
視覚系の画像処理機構を解明する為の研究方法としては、(1)生理光学、神経生理学的な側面、すなわち視覚系のハードウェアに関する研究、(2)実験心理学的な側面から視覚系全体の知覚特性を明らかにする研究、(3)視覚系の数理的モデルを構築し、モデルの立場から逆に視覚系の画像処理機構の本質を議論する研究の3つの方法がある。本研究では、第1番目の側面から得られた生理光学、神経生理学的知見を基にして視覚系の数理的モデルを構築する段階と、第2番目の心理実験による実測結果と視覚モデルから得られる理論的結果との一致性を比較することにより視覚モデルの有効性・正当性の検証を行う段階の2つを繰り返す研究方法を採用することになる。従って、生理光学や神経生理学からの知見が無い場合には仮説の導入によりモデル化を進め、モデルの正当性が検証されるまで仮説の修正を行う。また、必要であれば実験を行い仮説の正当性の検証も行なう。