小阪朋也,金子寛彦
広い視野における両眼視差の分布と絶対距離知覚
Abstract:人間は外界から感覚を通して得られるさまざまな情報を処理することにより,
周囲の空間構造を認識している.中でも視覚によるものは重要であり,視覚系
による情報処理は人間の空間構造認識能力の大部分を占めていると考えられ
る.われわれが障害物を避けて歩けるのも,さまざまなスポーツを楽しむこと
が出来るのも,われわれの視覚系が外界の情報から瞬時に空間構造を認識する
からである.視覚系が聴覚や運動系などと連携しながら,観察対象の位置や属
性を知覚することで,われわれは観察対象に対して近づく,触れるといった行
動を確実に行なうことが出来るのである.
このように高度な情報処理の連携を有する人工物はいまだ実現されていな
い.さまざまな分野で生物の持つ情報処理機構を工学的に応用することが重要
視されてきている現在,視覚系を含む人間の優れた空間認識機構に学ぶことの
重要性も増していると考えられる.しかし,多くの複雑な生物の情報処理系が
理解し難いのと同様に,人間の空間認識機構を理解することもまた困難であ
り,ほとんど知られていない.
生物の情報処理機構を知るために,さまざまなアプローチが取られている.
心理物理的手法は,人間の情報処理過程を調べる方法のひとつである.これは
巧みに制御された刺激に対する被験者の応答を,定量的,定性的に解析するた
めの手法であり,これまでに視覚研究の分野で広く利用されている.本研究で
は人間の視覚系による空間認識機構を,心理物理的手法を用いて調べている.