TR-H-0099 :1994.9.6

津崎実

『聴覚による認知』 - 聴覚情景分析と関連する知覚現象 -

Abstract:耳に与えられる信号は音が大気中を伝わる圧力の変化であるという性質から、複数の音源からやってくるもののが折り重なっている。人間の聴覚系の仕事はこの折り重なった信号を分解し、それを再合成して適切な対象すなわち音源の存在を認知することである。この過程は入力された信号を末梢的レベルでの要素的表現に変換し、この要素の集合の中から関連するものをまとめ上げて一連性のある事象レベルの記述を構築し、それを対象の記述へと結びつける過程として考えることができる。この章ではまず聴覚の末梢系における信号の分解がどのような機構によって行われるかを概観する。その後分解された成分間のどのような関係が事象としてのまとめ上げをする際の有効な手がかりになるかについて、実験例を交えながら紹介する。