TR-H-0063 :1994.3.14

林幸雄,大森洋一

発振ニューラルネットの遊走的な出力軌道の性質変化に関する実験的解析

Abstract:(株)ATR人間情報通信研究所では、生物の脳内の優れた情報処理能力の工学的実現を目指したニューラルネットモデルの研究を行っている。特に、脳内における時空間パターン処理に着目した、時間変化する出力を自律生成できるモデルを考えている。その一つとして、興奮性素子と抑制性素子のペアで構成される発振ニューラルネットが既に提案され、素子変数に関するN次元(N≥3)の状態空間内で、記憶パターン間を遊走する複雑な軌道を持つことが報告されている。一方、平衡状態に収束する従来の対称相互結合型の連想記憶モデルでは、記憶パターン数の増加に伴う記憶パターン想起の破綻現象が知られているが、同様のことが上記のモデルでも起こると予想される。すなわち、記憶パターン数の増加に伴った記憶パターンヘの引力の弱体化によって、軌道の遊走領域が記憶パターン間からN次元超立方体の他の頂点間にまで広がると考えられる。本論文は、このような遊走領域の性質変化をN=30と50の場合で実験的に示した、学外実習の結果をまとめたものである。