TR-C-0140 :1996.3.15

野間春生,宮里勉,岸野文郎

VR研究における力覚提示装置の分類とTOCUSを利用した試作装置の提案

Abstract:頭部搭載型ディスプレイ(HMD: Head Mount Display)と特殊手袋を用いた手形状入力装置、磁気3次元位置姿勢計測装置(磁気センサー)による全く新しいインタフェースが1986年にFisherらにより提案されて以来[1]、計算機内部に構築される仮想の世界をあたかも現実の世界であるかのごとく模倣して再現し、ユーザーに体験させる手法が人工現実感(Virtual Reality)と名付けられ、広く研究され実用化されてきた。 Fisherらのシステムは現在までに提案された多くのVRシステムの基本構成となっている。彼らのシステムではユーザーの視点移動を磁気センサーにより計測し、仮想世界で対応する視点からの立体CG映像をHMD内に表示した。また、特殊手袋と磁気センサーによってユーザーの手形状と手先位置情報を計測し、実世界で自身の手が本来存在する位置に装着者の指先の曲げ動作にまで連動した手首のCGをHMD内に表示した。これらのような自身の体の動きに連動したCG映像と自分の手を用いた直感的な仮想物体の操作手法により、ユーザーは現実感のある仮想世界を体験できた。 Fisherらのシステムから現在に至るまで、多くのVRインタフェースは人間の諸感覚器への物理的刺激の入出力のレベルで仮想世界をシミュレーションするように設計されている。従って本編では人間の諸感覚への入出力関係の面から既存のVRデバイスを検討してみる。人間の感覚機能を分類すると、図1に示すように、特殊な感覚器官によって知覚されるため特殊感覚と呼ばれる視覚、聴覚、味覚、嗅覚、平衡覚に加え、皮膚感覚と深部感覚からなる体性感覚(Haptic sensation)に分類可能である。皮膚感覚はさらに蝕圧覚と温冷覚、深部感覚は運動感覚、位置覚、深部圧覚に細分類される。 これらの諸感覚の中でも研究と実用化が進んでいるのは、視覚、聴覚、および体性感覚に関するインタフェースである。(表1)VRインタフェースを感覚へのフィードバックとみなした場合、視覚に関しては、利用者の目の位置を入力とし、視点位置に追従した立体画像提示装置による視覚情報でフィードバックを構成する。この時、ユーザーは運動感覚と位置感覚(kinaesthetic sensation)により自分の姿勢を制御し、これらから得られる空間的情報と視覚情報の統合の結果として視覚の臨場感が形成されると考えられる。聴覚に関しても同様に、耳の位置を入力として3次元音場生成を行い、ユーザーは視覚の自身の位置姿勢の制御情報と聴覚からの情報を統合して臨場感を強化していると考えられる。これらの場合、単に目や耳などの感覚器だけでなく、身体の姿勢情報が重要な役割を果たしている点がVRインタフェースの特徴である。 一方、体性感覚に対しては、ユーザーの体各部の位置情報を入力として、装着者の体性感覚に対して物理的な刺激を提示可能な装置によるフィードバックをおこなう。この際に問題となる点として、体性感覚に関する感覚器が触覚に相当する皮膚触覚や関節の曲げ角などに相当する深部知覚といった身体全体に網羅されたセンサー群であり、それぞれの感覚器に対応した個々のセンサーと刺激提示装置(Haptic Display)が必要となる。 次章以降においてこれまでに報告されてきた多様なHaptic Display関連の研究例について、その提示可能な感覚刺激と使用形体に基づいた分類を与える。さらに、ATR通信システム研究所で進められてきた臨場感通信会議システムでの利用を目指して開発したトルク制御型超音波モーターTOCUS(Torque Controlled Ultra Sonic Motor)を用いたForce Displayの構成と試作TOCUSの特徴と性能についてまとめる。